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だるまさんが転んだ――誰が残れるのか  作者: マーたん


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第6話

人は、誰かが倒れていれば手を伸ばす。

 それが正しいと、疑わずに教えられてきた。


 助けることは善で、

 見捨てることは罪だと。


 けれどもし、

 その「正しさ」そのものが

 命を奪う合図だったら?


 止まるとは、

 体を動かさないことではない。


 この話は、

 役割を引き受けた瞬間に消える世界の記録だ。


 ――だるまさんが転んだ。


 その声は、

 あなたが「何者かになろう」とした瞬間に、

 もう聞こえている。



第6話


白線の内側


 救急車のサイレンは、途中で止まった。


 正確には、音が消えた。

 ブレーキも、衝撃もない。

 ただ、そこにあったはずの救急車が、白線の手前で途切れていた。


 道路に残っていたのは、

 散らばった医療バッグと、

 転がるストレッチャー。


 中身は、なかった。


「……動くな」


 誰かが言った。

 その声は、震えていたが、はっきりしていた。


 倒れている人がいる。

 道路の中央、白線の外側。

 血を流している。

 呼吸は、浅い。


 助けなきゃいけない。

 そう思った人間は、多かった。


 だが、誰も動かなかった。


 白線の内側。

 そこに立っていれば、まだ生きていられる。

 そう信じている者たちが、十数人。


 救急隊員だった男が、一歩だけ前に出た。


「俺が行く」


 その瞬間、

 背後で、あの声がした。


 ――だるまさんが転んだ。


 男は、止まった。

 完璧に。


 姿勢も、呼吸も、視線も。

 誰が見ても「正しい止まり方」だった。


 それでも、消えた。


 白線の内側に、

 靴だけが残った。


 誰かが、泣きそうな声を出した。

 それを、必死に飲み込んだ。


 次は、看護師だった女が、声だけで言った。


「指示します。

 あなた、動けますか?」


 倒れている人が、わずかに指を動かした。

 その瞬間、女の喉が、消えた。


 声だけが、途中で途切れる。


 理解が、遅れて広がる。


 助ける、という行為そのものが“動き”になる。


 体を動かさなくても、

 声を出さなくても、

 意志を向けた瞬間に、数えられる。


 だるまさんは、

 見ているんじゃない。


 役割を確認している。


 誰が、誰を助けようとしているか。

 誰が、誰のために動こうとしているか。


 白線の外で、倒れていた人間が、ゆっくりと目を開いた。


 こちらを、見た。


 助けを求める目だった。


 誰も、応えなかった。


 応えられなかった。


 やがて、その目から光が消えた。

 その瞬間、何も起きなかった。


 消えもしなかった。


 ただ、死んだ。


 誰かが、ぽつりと呟いた。


「……見殺しにした」


 その人間は、直後に消えた。


 白線の内側が、

 一人分、空く。


 残った者たちは、理解していた。


 助けたら消える。

 助けようとしても消える。

 後悔しても消える。


 感じた瞬間が、動きになる。


 正解は、ひとつしかない。


 何も思わないこと。

 何者にも、ならないこと。


 救う者でも、

 救われる者でもなく。


 ただ、

 数えられない存在でいること。


 遠くで、また音がした。


 ――だるまさんが転んだ。


 今度は、

 白線の内側が、少しだけ縮んだ。

 動いた人間よりも先に、

 動こうとした人間が消えていきます。


 救急隊員。

 看護師。

 助ける側に立つと決めた人たち。


 彼らは勇敢でした。

 間違ってもいません。


 ただ、

 この世界では「正しい役割」を選んだことが、

 最も早い死因になった。


 誰かを救おうとする意志は、

 この物語では「動き」として数えられます。


 それでも、

 見殺しにした者もまた、

 別の形で消えていく。


 つまり――

 どちらを選んでも、代償はある。


 残るのは、

 何も選ばなかった者だけ。


 それが本当に「生き残り」なのか、

 それとも、

 ただ数えられていないだけなのか。


 答えは、

 まだ明かされません。


 ――だるまさんが、転んだ。

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