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だるまさんが転んだ――誰が残れるのか  作者: マーたん


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2/6

第2話



前書き


――だるまさんが転んだ


この物語には、

助けてくれる人は出てきません。


誰かが手を差し伸べることも、

正しい行動が示されることも、

ありません。


あるのは、

聞こえてしまった声と、

止まるしかなくなった人間だけです。


「だるまさんが転んだ」


その言葉を、

もし読んでいる途中で思い出したなら。

それは偶然ではありません。



前回のあらすじ


仕事帰り、住宅街の小さな公園で起きた原因不明の爆発。

火も煙も残らず、人だけが消えたその瞬間、現場にはひとつの声が響いていた。

――「だるまさんが転んだ」。


事故でも災害でも説明できない出来事は、全国で同時に起こり始める。

共通しているのは、爆発の直前にその言葉を聞いた者がいること、

そして、生き残った者は皆「止まっていた」こと。


それは、始まりにすぎなかった。



第2話


止まった人間


コンビニは、いつも通り明るかった。


白い蛍光灯。

電子音。

棚に並ぶ、変わり映えのしない商品。


世界が壊れ始めているなんて、そんな気配はどこにもない。


俺は弁当を手に取り、レジに並んだ。

前には三人。背中を丸めた老人と、スマートフォンを操作する会社員、そして――カウンターの前で立ち尽くしている若い男。


誰も、動いていない。


会計が詰まっているのだと思った。

だが、店員も声をかけない。手を伸ばしたまま、止まっている。


そのときだった。


「だるまさんが――」


声は、途中で途切れた。

スピーカーから流れたのか、誰かの口からこぼれたのかはわからない。

だが、その場にいた全員が、同時に理解した。


――止まれ。


俺は息を止めた。

視界の端で、会社員の親指が、ほんのわずかに動くのが見えた。


次の瞬間、音が消えた。


爆発ではなかった。

衝撃も、風圧もない。


ただ、空間が一瞬、抜け落ちた。


会社員が立っていた場所だけが、きれいに空白になっていた。

床も棚も壊れていない。

人だけが、最初からいなかったように消えている。


誰かが声を上げかけて、やめた。

悲鳴も、呼吸も、危険に思えたからだ。


数秒後、店内に音が戻る。

冷蔵庫の低い唸り。

外を走る車の音。


店員が、何事もなかったように言った。


「……次のお客様」


老人が、ゆっくりと一歩前に出た。

その動きが許されるのかどうか、誰にもわからなかった。


許された。


俺は弁当を置けなかった。

手を伸ばすという行為そのものが、命取りに思えた。


結局、何も買わずに店を出た。


外は夕方で、人通りが少ない。

いや、少ないのではない。

みんな、歩いていないのだ。


止まりながら、少しずつ位置を変えている。

走る人間はいなかった。


スマートフォンを見ると、速報がいくつも重なっていた。


《全国で原因不明の消失現象》

《専門家「動作との関連は確認中」》

《冷静な行動を》


冷静、とは何だ。


止まることか。

考えないことか。


信号が青に変わっても、誰も渡らなかった。

横断歩道の真ん中で止まることが、正解なのか不正解なのか、誰にも判断できなかったからだ。


俺は、足を上げかけて、やめた。


頭の奥で、あの声がする。


だるまさんが転んだ。


それはもう、遊びの声じゃない。

命令でも、警告でもない。


ただの――

確認だった。



後書き


――誰が助けて


読み終えたあと、

胸の奥に残った言葉があるなら、

それはきっと、これです。


誰が助けて。


けれど、この物語の中で、

その問いに答えが返ってきたことは

一度もありません。


助けを呼ぶことも、

振り向くことも、

ここでは「動き」だからです。


「だるまさんが転んだ」


もし今、

あなたの周りが少し静かに感じるなら。

それは世界が変わったのではなく、

あなたが、

止まっているだけなのかもしれません。

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