シャワー
三題噺もどき―ななひゃくろくじゅうなな。
きゅ、と蛇口をひねる。
勢いよく飛び出す水をよけながら、お湯が出るまで待つ。
冷えた浴室の床は、水でさらに冷たくなっていく。
「……」
端の方に寄せて置いた風呂椅子を、お行儀悪く足で寄せる。
徐々に暖かくなるお湯を足の先にかけると、麻酔にでもかかったように痺れが広がっていく。じわじわと広がる熱は、少し熱すぎるくらいにあつい。
「……」
それに合わせて、床も少しずつ暖かくなっていくが。
端の方は変わらず冷たい。
別に問題はないのだけど、なんとなくそこまでお湯をかけていく。あまり意味はないが。
「……」
足先が徐々に暖かくなり、シャワーをあてる位置を、少しずつ上げていく。
いきなりかけるとよくないらしいからな……この身でヒートショックなんて笑えないからな。なる事あるかどうかも分からないけれど。
「……」
ホントは、浴槽にお湯をためて入りたいところではあったが、生憎風呂掃除をするのを忘れていたので、諦めた。
それに、少し進めたい仕事もあるので、あまり長風呂は出来ない。明日してもいいのだけど、まぁ、それなりに急ぎで且つ量がある仕事なので、進めるときに進めておきたいのだ。
「……」
風呂に入る時くらい仕事の事は忘れたいものだな……。
「……」
風呂に浸かればそれなりの時間を要するが、シャワーだけだと烏の行水もいいところだからな。特にこだわりもないからなのだろうけど、普通どれくらいはいるものなのだろうか。
やることと言えば、頭を洗って体も洗って、流すくらいだろう。
「……」
冷たくなっていた風呂椅子にも、シャワーをかけて、気持ち温かくしておく。
座ってしまえば気にならなくなるが、その前に冷たいとさすがに身が冷える。
あれだ、冬のトイレとかと同じような感じだ。
初めて座ったときは寿命が縮んだかと思ったな……縮む寿命もないが。
「……」
軽く体を流しながら、頭も流していく。
ジワジワと広がる温かさに混じって、液体が流れていく感覚が背中を伝っていく。
冷えていたせいか、余計にその感覚が強く帰ってきて少しぞわりとしてしまった。
お湯を浴びているのに鳥肌が立つとは思いもしなかったな。
「……」
水にぬれて重くなった前髪をかき上げながら、視界を良好にする。
とは言え、冷えた空気の中でお湯を使ったのだ。
湯気で白くなり、多少は見づらい。
「……」
備え付けの棚の上に置かれているシャンプーを手のひらに取り出す。
毎度思うが、使っているシャンプーが黄色いので、目玉焼きの黄身みたいで面白いと思う。これでコンディショナーが白ければ、確実に狙っていそうだが、そんなことはないのでたまたまだろう。
しかしこう、なんでシャンプーやコンディショナーってこんな色がついているんだろうか。
「……」
まぁ、取りとめもないことを考えても意味もないので、さっさと風呂を済ませてしまおう。
取り出したシャンプーで頭を洗いながら、仕事のことを考える。
残りはアレとこれをして、追加であれもしておきたいし……あぁ、何か連絡が来ていたはずだ。それも確認しないといけない。
「……」
出しっぱなしになっていたシャワーを頭にかけ、泡が目に入らないように目を閉じる。
水と共に流れていく泡が、体を這う。
流すたびに軽くなっているのか重くなっているのか……。
「……」
もう一度髪をかき上げながら、今度はボディタオルを手に取る。
軽く濡らした後に、その上にボディソープを取り出す、
以前は固形石鹸を使ったりしていたのだけど、これの方が楽だしまぁ、肌にも良いだろうということでいつからか液体になっていた。
「……」
わしゃわしゃと泡立て、適当に体を洗っていく。
少し粗目のボディタオルを使っているから、肌に言いも何もない気がしてきたが、まぁ今更だ。それにそもそも気にするようなことでもない。基本的に勝手に回復する。肌なんて特に。内臓はまぁ、そう簡単には行かないが。
「……」
全身を泡まみれにした後に、シャワーでまた流していく。
ついでにボディタオルの泡も流し、綺麗にしたうえで元の場所に戻しておく。
後は顔を軽く洗って、再度全身を流して。
「……ふぅ」
さて、さっさと上がって、仕事を進めるとするか。
「……ご主人」
「ん……」
「まだ寝ないんですか」
「いや……もう寝る」
お題:目玉焼き・麻酔・明日




