第9話「崩壊」
前回からの、あらすじ。
転生バーン!、周囲との軋轢ドーン!、家出バーン!、試験ドーン!、合格バーン!、再会ドーン!、
衝撃ドーン!、辞令バーン!、初陣ドーン!!
以上!
テッラ・モルディスでの初陣から、1年。
既に、ハインツは、5回の実戦を経験していた。
そして、ウォルフガング率いる第211騎兵小隊と共に、第2等級魔境「ブラウアー・シュラム」にて、6度目の実戦に挑むことになる。
標的は、第3等級魔物たる、シュラム・タートル。
非常に堅牢な甲羅を有しているが、その分、機動力に劣る為、騎兵部隊が非常に重要であった。
砲兵としては、第77砲兵中隊が配置され、8門の8.8cm野戦魔導砲と、4門の長10.5cm魔導砲が、敵の障壁の圧壊を狙うと共に、周囲に展開する、第4、第5等級魔物を排除し、騎兵部隊の機動の支援を行う。
「フォイア!(発射!)」
けたたましい砲声と共に、次々と、魔物に向かって、魔導砲弾が煌めきつつ弾着する。
特に、長10.5cm魔導砲の砲撃は凄まじく、砲声を置き去りにして、シュラム・タートルに弾着していた。
それは、長10.5cm魔導砲の砲弾が、音速を超えている事を表しており、その圧倒的な破壊力から、シュラム・タートルの障壁圧壊は、目前に迫っているような感覚を、その場の誰もが抱いていた。
一方、今回の、第186砲兵小隊の任務は、周囲の魔物の掃討であったが、ハインツは、細心の注意を払いつつ、慎重に、4門の砲を制御していた。
「右に5ミル修正、プラス70。
ヴィルクザムカイツシーセン(効力射撃!)」
「フォル・トレファー(直撃)!」
「フォイヤーユーバーファル(全力射撃)!」
第186砲兵小隊は、順調に雑魚魔物達を掃討。
一糸乱れぬ砲撃は、周囲の砲兵部隊から、尊敬の眼差しで見つめられていた。
余計な指令が出されることも、余計な情報が、伝えられることも無く、ハインツの指揮に従い、ただ黙々と砲撃を行うその姿は、正に、ロイエンベルク軍人とは、かくあるべきと、示しているかのようであった。
障壁が圧壊したことを、観測班が確認すると、前線司令部は、ウォルフガングも所属する、第81騎兵中隊に、突撃を命令。
ホイッスルの音と共に、シュラム・タートルに向けて、突撃を開始した。
最初は、順調に思えた。騎兵中隊から発射される弾丸は、次々とシュラム・タートルに命中、一発一発が、3cm砲弾にも匹敵する破壊力を、爆裂術式と貫徹術式により解放する。
シュラム・タートルは、そのあまりの苦痛に、大きく首を振り上げ、咆哮する。
シュラム・タートルが、手足や首を体内に収める。
討伐は間近である。誰もが、そう思った。
「キィン」
突如として、剣が打ち合ったような音が、戦場に響き渡る。
それと同時に、シュラム・タートルの、甲羅の表面が輝き出し、魔法陣が浮かび上がる。
そこに、浮かび上がった紋章の意味を、ハインツは即座に理解した。そして、叫ぶ。届かないと、頭の何処かで、分かっていながら。
「ウォルフガング、逃げっr…!」
長10.5cm魔導砲等、比較にならない程の爆音が、その場に響き渡る。
それは、物理的な衝撃波を伴い、砲兵陣地まで到達する。
ハインツを含め、中隊の面々のうち、ほぼぜんいんが、倒れ伏す。
ハインツは、耳鳴りを振り払いながらも、即座に立ち上がり、指示を行う。その両耳からは、深紅の血が垂れていた。
「目標、シュラム・タートル…いや、霊亀!
可及的速やかに、目標に攻撃を集中せよ、繰り返す。
目標、霊亀!速やかに、攻撃を集中せよ!
今、倒せなければ、全滅するぞ!!」
小隊の面々は、鬼気迫る態度のハインツを見て、何とか態勢を立て直すと、直ぐに砲撃準備を開始した。
それを見届けるか見届けないかの内に、ハインツは、無線機にかじりつくように、無線を送る。
「衝撃波を受け、一時的に行動不能に陥るも、攻撃を開始する。
敵魔法陣より、『蓄積』、『反転』、『解放』の術式を確認。
敵、シュラム・タートルに非ず。敵魔物、第2等級魔物、霊亀と断定す。繰り返す。敵、霊亀と断定す。
第186砲兵小隊は、霊亀に向け、砲撃を開始する。」
おぼろげながらも、砲声を確認する。ハインツは、衝撃波の影響により、聴力を一時的に失っていた。
ハインツは、構うこと無く、双眼鏡を手に取り、弾着地点を観測、現在機能不全に陥っている、観測班に代わり、修正を行う。
「第三分隊、右に10ミル修正、プラス80。
ヴィルクザムカイツシーセン(効力射撃)!」
弾着地点を観測する。至近弾、まだ、命中の気配は無い。
「行き過ぎた、左に2ミル修正、マイナス10。
ヴィルクザムカイツシーセン(効力射撃)!」
命中弾を確認する。霊亀は、苦悶の叫びを上げる。
甲羅の中に反響し、不気味に響き渡る。
「フォル・トレファー(命中)!
各分隊、第三分隊に方位、射角共に合わせ、
フォイヤーユーバーファル(全力射撃)!」
8.8cm野戦魔導砲が、ファンハーレのように、砲声を轟かせる。それを見届ける間もなく、ハインツは、伝書鳩と無線の両方で、目標座標を各砲兵小隊に伝達、砲撃支援を要請する。
暫くすると、徐々に、砲兵陣地が砲撃を開始、霊亀に砲弾の雨が降り注ぐ。
霊亀は、甲羅に与えられた衝撃を蓄え、放出する性質を持つ。故に、強さとしては、シュラム・タートルと大差ないにも関わらず、第2等級に分類されているのだ。
しかし、衝撃波の放出直後には、放出したエネルギー量に比例した時間、術式が停止し、無防備な状態となる。
その為、ハインツは、いち早く、砲撃を指示したのである。
霊亀の甲羅は次々と粉砕されていき、砲煙が晴れる頃には、見るも無残な姿となって、自身が作り出した、クレーターの中に沈んでいた。
ハインツは、それを確認すると、直ぐに、周囲を双眼鏡で探る。
だが、そこには、第81騎兵中隊の姿は、何処にも見当たらなかった。
ウォルフガングの戦死、その事実を認識したハインツは、その場に倒れ伏す。
「少尉!?大丈夫ですか!少尉、少尉!」
アデリナが駆け寄り、ハインツに声を掛ける。
その声は、彼への心配に満ちていた。
ハインツは、もはや、限界だった。
ハインツの世界は、常識は、倫理は、木っ端微塵に砕け散り、崩壊したのである。
本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。現在、毎日投稿キャンペーン中なので、本作だけでなく、ほかの作品もよろしくお願いします!
オススメ∶境界戦線