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第7話「砲煙」

前回からの、あらすじ。

転生バーン!、周囲との軋轢ドーン!、家出バーン!、試験ドーン!、合格バーン!、再会ドーン!、

衝撃ドーン!

以上!

 あの日以来、ハインツは眠れない夜が続いていた。

ウォルフガングは、そんな彼を心配しつつも、一足先に卒業。


 卒業後は、騎兵科を専攻、研修を経て少尉に昇進し、第211騎兵小隊の小隊長として、機動戦力を率いて戦場を駆けていく事となる。


 ハインツも、眠れないながらも、成績を落とすこと無く、次席で卒業する事に成功。


 卒業後のハインツは、ウォルフガングと同じく騎兵科に進もうとしたが、そこでミハイル中尉が、裏から手を回したことで、本人の意向を無視し、砲兵科に進む事となってしまう。


 ハインツは、しばらくの間、研修を受けた後に少尉に昇進すると、その後は、直ぐに8.8cm魔導砲4門を擁する、第186砲兵小隊の指揮官として、辞令を受ける事となった。


 ミハイル中尉とハインツ少尉が、とある料亭の一室にて、向かい合って座っていた。

ハインツは、憤懣やる方ない、という表情を浮かべつつ口を開いた。


 「ミハイル中尉、どういうおつもりですか?」


 ミハイルは、惚けるように答える。


 「まぁまぁ、ハインツ君。少し落ち着き給え。

それに、今は休日だ。

堅苦しい階級で呼び合うなど、無しにしないか?」


 ハインツは、苛立たしげにため息を吐きつつ口を開く。


 「分かりました。では、ミハイルさん。もう一度聞きますが、どういうおつもりですか?

騎兵科を志願した私の願書を揉み消し、わざわざ砲兵科に配属するなど、例え子爵家たる貴方でも、かなり危ない橋を渡ったでしょうに。」


 ミハイルは、ハインツの表情を確かめ、トニックウォーターで割ったシュタインヘーガーを嗜みつつ、愉しげに答える。


 「ただ砲兵科に配属したわけでは無いぞ、ハインツ君。

私の隷下にある、砲兵小隊だ。

私は、君の直属の上官と言うわけだな。

ハッハッハ」


 笑い声を上げるミハイルを、冷めた目で見つめ、

ハインツは、良く冷えたコルンを、一気に呷る。

 麦の風味が鼻を抜け、スッキリとしたその飲み口は、アルコール度数という制約が無ければ、幾らでも飲めそうであった。

 

 アルコールが口を滑らかにしたのだろうか。

少し、顔を緩め、ハインツが感嘆したように口を開く。


 「これは…相当に良い物ですね。豊かな麦の風味を感じますが、スッキリとした飲み口なので、幾らでも飲めてしまいそうです。

本当に、奢りで良かったのですか?」


 ミハイルは、機嫌良さげに答える。


 「お、イケる口だな?ここは、良い店だろう。ハインツ君。『アイン・イルゲントエトヴァス』というクナイペでな。


 夜は、この通り酒場なんだが、昼間は喫茶店として営業していてな。そこで出るソーセージが、又旨いのだ。

 あぁ、勿論、幾らでも飲んで食ってくれ給え。」


 ハインツは、それを聞いて、暫くの所不満を飲み込み、飲み食いすることに専念した。


 ソーセージを2本に、ザワークラウトをボウル半分程平らげ、コルンを半瓶飲み干した所で、ミハイルが口を開いた。


 「さて、腹も落ち着いた所で、本題と行こう。」


 ハインツは、口の中のザワークラウトを、コルンで流し込み、頷く。

 それを見届けたミハイルは、満足気に少し頷き、口を開く。


 「ハインツ君は、私がリスクを犯してまで、君を砲兵科に引き入れた事を、疑問視しているのだろう?」


 「はい、そのとおりです。貴方にそんな事をする理由は無いはずだ。」


 ハインツは、再び頷きつつ答える。

 それを見たミハイルは、軽く首を横に振り、答えた。


 「実は、そうでもないのだよ。ハインツ君。

とある筋から、君の成績表を手に入れてね。

 それを見て驚いたよ。


 弾道計算。これの成績がとても良い。更には、兵器学に魔導学も抜群だ。

これを見たとき、運命を感じたね。

 君を騎兵科に渡すなど、とんでもない。


 あんなのは、動物と相性が良い脳筋共に、任せておけば良いのだ。」


 ハインツは、軍学校の機密情報が、漏洩している事への混乱を感じ、戸惑いつつも、口を開く。


 「ですが、それでも、リスクが高いのでは?

そもそも、私は騎兵科を志願していたのですよ?

それこそ、上からの意向でも無い限りは、このような事は、出来ないでしょう。」


 ミハイルは、我が意を得たり、とばかりに、綺麗なアルカイック・スマイルを浮かべ、答える。


 「それがな、これは、王国軍統合参謀本部の意向でもあるのだよ。

実は、軍学校の首席と次席の情報は、逐一、統合参謀本部に提出されるのだ。

君のような逸材を掬い上げるためにね。


 つまり、私は、危ない橋など渡っては居ない。

ただ、統合参謀本部と交渉し、私の隷下に置くように、提案するだけで良いのだ。


 因みに、首席たるクリスティアーネは、中尉となり、第51砲兵小隊を率いているよ。」


 ハインツは、その話を聞き、納得を覚えると共に、多くの情報が与えられたことで、少し憔悴しつつ、力なく口を開いた。


 「…つまり、私の意向は、一切無視される、と言うことですね?

願書など、基本的に意味は無い、と。

 全く。ロイエンベルクらしいと言うか、なんというか…ハァ…」


 ハインツは、脱力し、ため息を吐く。

そこには、ロイエンベルクという国家に対する諦めと、少しの不安定さ、そして、酒による酔いにより、少し赤らんだ顔が相まり、非常に色気のある風貌となった、美青年の姿があった。


 ミハイル中尉は、貴族社会に生きている為に、あまり動じていないが、他の客の中には、その顔を見て余計に顔を赤らめる者も居た。


 その後、ハインツは、憂さ晴らしとばかりに、ミハイルと飲み比べを行い、酔いつぶれ、ミハイルに担がれて、駐屯地の寮まで送ってもらう事となった。


 そして、時が遡ること、10日前。騎兵科に志願した筈が、砲兵科で、訓練を受けることになり、少尉として、第186砲兵小隊に配置された日の事。


 ハインツは、胃薬を飲み込み、腹を擦りつつ、訓練所に向けて歩いていた。

 訓練所には、小隊に所属する48名の兵士が待機しており、新指揮官の訓示を待っていた。


 ハインツは、頭を悩ませつつ、独り言を呟く。


 「砲兵科に配属されたのは、まだ良い。いや、良くはないが、後でミハイル中尉にでも聞けば良いことだ。

だが、なぜ、よりによって、新任の指揮官に、第186砲兵小隊を任せるんだ?


 これ、体の良い厄介払いかなんかだろ…」


 この、第186砲兵小隊は、ハインツが辞令を受け取る、ほんの数週間前に、第2等級魔境「ウロボロス・ボルケイノ」で壊滅しており、その際に、指揮官が戦死、隊員の内、実に三分の一以上が戦死したことで、大規模な再編成を受けたばかりであった。


 8.8cm魔導砲、それも、最新鋭の28式8.8cm野戦魔導砲が4門配備されている為、錬成されれば、第三等級にも通用するような強力な兵力となる。


 だが、今のところは、新兵同然の状態で、砲の扱い方は兎も角、連携に関しては、良くも悪くも一般兵同然であり、その状態から、立て直すことを、ハインツには求められていた。


 ドアを開けると、そこには、48人の屈強な男女が、整列し待機していた。第186砲兵小隊の面々である。

 小隊の面々は、ハインツが、ドアを開けると、そちらの方を一斉に見やる。


 ハインツは、少しも怯んだ様子を見せず、眠気を堪えながら、小隊の面々の前に進み出る。


 砲兵小隊の、最前列の真ん中に立っていた女兵士が、前に一歩進み出て、声を張り上げる。


 「全隊、ハインツ新指揮官に、敬礼!!」


 砲兵小隊総勢48名が、一斉に敬礼する。

ハインツは、即座に答礼、暫く、小隊の面々を見回し、一人一人の顔と階級をざっと調べた後に、敬礼を解き、後ろに手を回す。


 それを見た女兵士が、再び声を張り上げる。


 「全隊、敬礼辞め!


 お待ちしておりました、ハインツ少尉。

私は、アデリナと申します。

曹長の階級を賜っております。先任のアーダルベルトが戦死した為、彼に代わり、指揮官の補佐を拝命しました。」


 ハインツは、アデリナを見つめ、口を開いた。


 「貴官の献身と協力に感謝する。私の補佐官として、存分にその辣腕を振るってくれたまえ。」


 「ハッ、お任せください。少尉。」


 アデリナは、少しぎこちなく身じろぎし、答えた。

 ハインツは、アデリナの反応を無視し、未だに気を付けを続けている小隊に向けて、声を張り上げる。


 「休め!傾注!」


 小隊の面々は、後ろ手に手を組み、右足を前に出して、ロイエンベルク式の休めの体勢をとる。

そして、ハインツの居る方向に顔を向け、傾注の姿勢をとる。


 「諸君!先ずは、礼を言おう。

指揮官が居ない間、小隊を維持してくれて、ありがとう。

 私は、新指揮官のハインツ少尉である。

私は、あまり長話が好きではない。だから、私の指揮官としての素質を疑う者には、行動をもって示そうと思う。


 一月後には、この部隊の初陣となる戦いが始まる。

だが、しかし、臆することはない!

敵は、第三等級魔境『テッラ・モルディス』に現れた、第三等級魔物である、オークジェネラルと、その群れだ。

 醜い豚の怪物ども等、我等が栄えある王国軍の、最新鋭砲である28式野戦魔導砲でミンチにしてやろう!

 諸君らには、それを達成するだけの武力が、能力がある!

そして、強力無比な諸君らに、私という指揮官が合わされば、最早叶うものなど居ない。

勝利は約束されたものとなる!

 諸君、共に凱旋し、ビールを飲み交わす日を楽しみにしているぞ!

 傾注、終わり!」


 ハインツの演説が終わった瞬間、疎らながら拍手が上がり初め、それは瞬く間に全員による拍手へと変わっていく。

最早、小隊に漂っていた不安感は拭い去られ、皆が心を一つに出来た、という確信を抱いていた。


 その後、ハインツは、日夜小隊と訓練に励み、前線配備に向けて、鍛錬を積んでいく事となる。

 しかし、ハインツの心中は、穏やかではなかった。

 未だに、世界とのギャップは、ハインツの心を苛み続けていたのである。

本日も、ご読了頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして。チャデンシスと申します。大体週一ペースで投稿しているので、これからも、本作をお願いします。

それにしても、久しぶりに、四千文字近い話となりました。

皆さん、良く目を休めて、休憩を挟みつつ、お読み下さいね。

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