自分の知らない自分のこと
お庭の水やり
動くもの
ちいさいもの
みどり色
背中と
首の裏側で感じる
太陽からの熱い熱いいたずらを
心地よい
と感じられたら
お庭の水やりだって
もうすこし
気持ち穏やかにできるだろうに
マナモは思いながら
けれど水やり
そこまで嫌いではない
お庭の草花たちにするあいさつを
日課としているマナモは
だから
むしろ好ましくさえ思っている
ときどき動くもの
たいがいそれは
ちいさくて
マナモに
見つからずにいるものたちも
多いのだけれど
気がつけば
彼ら彼女らにも
マナモはきちんと
声をかける
お庭の水やり
動くもの
ちいさいもの
みどり色
視界のはしっこの
そのまた
はしっこの
キミ
去年もいたよね
言ってみるも
ぴょおおん
ひと飛びして
かえるは
知らんぷり
んふふ
マナモの笑みでさえ
そのかえるは
すこしも見ようとせず
さっさと行ってしまう
ちゅぴちゅぴちゅぴ
軒の上では
小鳥が
お話をしているのだか
いちゃつき合っているのだか
ちゅぴちゅぴちゅぴい
なんというお名前の鳥かしら
ちゅぴいちゅぴちゅぴちゅぴい
あのくちばしで
キッスはできるのかしら
マナモには
わからない
なかよさそうにしているのは
その声から
理解できるけれど
外に出たあとは
うがい
手洗い
それは
あのときより前にも
ふつうにやっていたことで
だから
あのときがやって来ても
そのことについてだけは
特に何も
変わらなかった
そのことについてだけは
あのときはあのときで
けれど
それはまだ
いま
でもある
それが
マナモの印象
絵本をつくってみたいのに
絵を描くことができない
それは
マナモだって
知っている
履くときは
左からなのに
脱ぐときは
右から
知らなかった
自分の知らない自分のこと
まだまだ
あるのだなあ
くつ下のふしぎ
マナモが名づけたそれは
けれど
自身の成長とともに
あいまいになっていくことを
まだマナモは知らない