序章 リスタート
私は世界に名を残した英雄達のひとりだった、
『貴様は誰も守れない、役立たずだろう』
仲間達と共に強大な敵との戦いに挑み続け幾度の困難も乗り越えたつもりだった。
『あんたはこう呼ばれているよ、英雄に付き纏った寄生虫』
けれど、実際には
『お前は物語のような英雄なんかじゃない』
そうじゃなかった
英雄となったものは神に至る。この世界の神々はそうして生まれる。だから私も神になったはずだった。
灰色の大地、月と呼ばれたその衛星の大地で、私はボロボロの傷ついた身体となって横たわり無様な姿を晒している。
『なんで、こんなことを』
痛い、苦しい、どうして、何故、これら疑問を彼らに言った。
彼らは私に対して冷たい視線を向けていた。
『それは、僕らの作る世界に君が不必要だからさ』
『ぇ?』
『すでに世界は僕ら八人によって分割して統治すると決まっているんだ』
『だから申し訳ないけどさぁ、君、邪魔なんだよね』
信頼していた、信じていた、仲間だと思っていた。
そしてリーダーを尊敬していた、
なのに、なんで、
一振りの剣が、私の心の臓を貫いた。
『―――システム起動、確認』
『惑星管理システム、接続、確認―――X56惑星ヨリ救難信号ヲ受信』
『エインヘリヤル起動―――エラー』
『生体損失ヲ確認、複製データ、解凍』
『要請X12190 Type61G エラー』
『残存個数請求、“0” 再製造要求、不可』
『再要請、エラー、変更』
『要請X12189 Type61F 確認、複製データコピー、完了』
『エインヘリヤル起動―――確認、位置座標設定、完了』
『緊急投下シークエンス起動』
『起動確認、エインへリヤル、個体名イーリス―――グッドラック』
X56惑星と呼ばれるその星の軌道には、人為的に作られた巨大な人工衛星存在した。いつだれが作ったのかは定かではない。人工衛星は機能の殆どを停止し長い眠りについていたが、惑星より発進された救難信号によって目覚め、それに答えるように大型のコンテナを射出する。そしてコンテナが惑星の大気圏に突入していくのを確認した人工衛星は役目を終えたとばかりに再びの眠りに付いた。
大気圏に突入したコンテナは雲の海を突き抜けて、設定された位置座標へと向かう。ところが長い間ほとんど整備をされていなかったコンテナは減速のためのスラスターが機能せず、高度が下がるにつれて更に加速、緊急用パラシュート装置が機能したため何とか突入には成功する。しかし本来の投下座標から数キロと大幅に離れた地点にコンテナは落下した。
コンテナの落下した地点は何もない荒野だった。すでにコンテナが落下してから幾日が経った頃、轟音を鳴らし土煙を上げる一段が遠方より現われた。その集団の先頭にはタイヤのない浮遊して進む2人乗りのバギー、そのバギーを追うように、8メートルの人型ロボットが地面を滑るように追いかけていた、その数は4機。さらにその後ろに人型ロボットを2機は積載できるバギーと同じく浮遊して進む2台の大型トラックが続いていた。
バギーは人型ロボットたちの集団に襲われているようで、人型ロボットたちの持つ銃から放たれる実体弾の攻撃を必死に避けながら逃げていた。
乗っているのは男女の2人組、ボロボロの使い古されたツナギを着た赤髪の女が運転し、助手席には軍用迷彩服を着た男が座っている。
「ちょっと、ちょっと、どうするのよ!?これッ」
「うるさい、黙って運手していろ、いま手を考えている」
「はぁあっふざけんじゃないわよ機械人4機よ!よ・ん・き」
「このバギーに積んでいる対戦車ロケットじゃ、関節破壊が精々限界なのよ、どうにか出来るわけないでしょうが!?」
「そうだな、だから黙って死ぬ気で避け続けろ」
「ああもう、まったくもう何でこんな奴に着いてきちゃったのかしら」
「モウモウ言っていると牛になるぞ」
「言わせてんのはあんたでしょうが!」
2人は言い合いながらもバギーは実体弾の攻撃を避けながら進んでいたが、進むその先にコンテナがあるのに気付く。
「あれは、確か古代アース人の降下艇じゃないの、なんでこんな所に」
「ふむ、よしあの降下艇に突っ込め、丁度良い大きさの入り口をこれから作る」
「はぁ!?ちょっとまって貴重なロケットをそんな―――
女が制止しようとするも男は対戦車ロケットを構えると即座にコンテナに向かって発射する。ロケット弾は見事コンテナに命中した。しかし爆発からの煙が晴れるとコンテナには傷一つ付いていなかった。
「ああもう、古代アース人の降下艇は凄く丈夫で生半可な攻撃じゃ傷なんか一つも出来もしないわよっ」
「なんだと、それを先に言え」
「それを言う前に貴女が撃ったんでしょうが、ああもう終わったわ私の人生、最悪」
「おい、操縦を止めるな、不味い―――
女は一瞬のショックに操縦を忘れてしまい、人型ロボットの放った実体弾によって至近弾を食らったバギーは吹き飛ばされて横転してしまう、さらに2人はバギーから投げ出され地面に転がる。
「痛い、これは足やっちゃったわね」
「ぐっ大丈夫か、まったく油断するからだ」
「……ええそうよ、もういいわよなんだって、どうせ終わりなんだし」
「……」
人型ロボットたちは2人を囲むように銃を向ける。そして2台の大型トラックからは防弾チョッキにサブマシンガンを装備した歩兵達が展開し2人を包囲した。その歩兵達の中から服装の違うキラキラ光る勲章をつけた男が歩み出る。
「まったく、手こずらしてくれちゃってまあ、連邦のスパイくん、あと脱走兵クレアくん」
「まるでサーカスのようでなかなか愉快だったよ、君たちの無駄なあがきは滑稽だ」
「あらそう、楽しんで貰えて良かったわ、ドリアン大佐」
「ふふ、命乞いかねクレアくん、その男はともかく君が良ければ助けてやろう、まあ、条件はあるが」
そういってドリアン大佐の視線はクレアの二つの突出したものにいやらしい視線を向ける。下心丸出しのその姿は生理的険悪感を感じさせ,周囲の兵達も厳しい目を向けていた。それ故に義憤からか軍人としての使命感からか1人の兵士がドリアン大佐に近づく、
「大佐、上層部の命令はスパイと脱走兵の排除です」
「ハァ、まったく大尉、上官に指図をするな」
2発の銃声が響く、そしてドリアン大佐のすぐ側にいた大尉は物言わぬ骸となった。ドリアン大佐は死体を足で踏みつけ徹底的に貶す言葉を吐きつけ満足するまで繰り返した。
「いいかぁ、軍とは階級がすべてだ、今この現場の最高指揮官は一番上のわたしだ」
「故に私が絶対だ、私の判断がすべてだ」
沈黙が生まれる。逆らうものがいないと確信したドリアン大佐は、
「ふ、階級以外に何一つ取り柄もない、哀れな奴だな」
一瞬で覆されてしまう。
「なっキサマアアああ、殺せ、奴を殺せ、むごたらしく凄惨に殺せ!おい貴様ら早くしろ―――
癇癪を垂れる無様をたった一言で簡単に晒した上官の命令にに渋々従うように武器を構える兵士達、軍人である以上命令には絶対、亡くなった大尉に変わり中尉が一斉攻撃の合図を下そうとした。瞬間、
1機の人型ロボットの上半身が消し飛んだ。