王妃の呼び出し
「王妃様がお呼びです」
断れるはずもなく、重い足取りで侍女のあとをついて行く。王子様の次は王妃様。間髪入れずに王族と面会なんて。それにこのタイミング、どうせロクな話ではないだろう。
案内されたサロンでは、王妃様が一人お茶を飲んでいた。挨拶もそこそこに着席を促される。
「それで、あなたどうするつもりなの?」
王妃様がティーカップを置く。私にお茶が出てくる気配はない。
「どう、と申しますと…」
「あなたレオニスに婚約解消するようにいわれてきたのでしょう? 公爵令嬢が男爵令嬢ごときに負けてどうするのよ?」
「しかし、王太子殿下のご意向に逆らうなど…」
「あなたは王家のご意向で選ばれた婚約者なのよ? たとえディケンズ公爵の力押しの結果であっても、正式な婚約者なの。レオニスを窘めて、男爵令嬢に不貞を問うくらいのことすらできないの?」
「申し訳ございません…」
王妃様が深くため息をついた。
「そういうところよ。これではレオニスが男爵令嬢ごときに熱を上げるのも仕方ないわね」
私はあなたとの婚約は反対だったのよ、と王妃様がティーカップを仰いだ。
「やっぱりあなたには王妃は無理ね。王太子どころか、王のご意向にだって時には逆らって事をおさめるのが王妃の役目。いいなりになっているだけじゃ務まらないのよ。あなたが妃教育によく努力していることは知っているわ。でも、それだけなの。貴族でなければ評価できるのだけれど、王太子の婚約者、将来の王妃としては失格ね」
「申し訳ございません」
「ほら、また謝罪。そういうところよ。もういいわ、帰りなさい」
王妃様はいうだけいって席を立ち、部屋を出て行った。扉の閉まる音がして、私は顔をあげる。安堵と、憂鬱なため息がこぼれた。