婚約解消
「ローザリンデ、婚約を解消してもらいたい。わかっているだろう?」
少しの哀れみを滲ませてそういったのは、レオニス王太子殿下。私の婚約者だ。その隣にはピンクの瞳を潤ませた男爵令嬢、エイミー様がいる。柔らかくウエーブするピンクの髪に華奢な肢体。鈴を転がしたような声まで含め、同性の私から見ても本当に愛らしい。
「ローザリンデ様、どうかお許しください。私たちが愛し合ってしまったばかりに…」
はらりと涙を零すエイミー様の肩を抱くレオニス様。
「エイミーが責任を感じることなどないよ。私とローザリンデとの婚約は家格や年齢の釣り合いで決められたものに過ぎない。王太子たる私が真実の愛に出会ったのだから、解消してしかるべきなんだよ」
「レオ様…」
見つめあう二人。このまま気配を消して消え去りたいけれど、どうしても言わなければいけないことがある。
「レオニス殿下、申し訳ありません。私からはお返事致しかねます。ディケンズ公爵家当主である父とお話しください」
「ディケンズ公爵には今朝方話をしたのだけど渋られてね。『教会の承認を受けた正式な婚約者は当家の娘であることをお忘れなく』と逆に釘を刺されてしまったよ。でも、真実の愛を手に入れた私が形だけ君と結婚をしてもお互い不幸になるだけだ。君からも公爵を説得して欲しい」
私は頷くことができず、無言で目を伏せた。
「形だけの結婚なんて意味がない、婚約の解消は君のためでもあるんだ」
私はやはり賛意を示すことができなかった。二人を残し、本来の婚約者である私が一人部屋をでる。家に帰りたくないけれど、王宮にいたくもない。とりあえずノロノロと馬車に向かっていると、侍女に呼び止められた。
「王妃様がお呼びです」