19話 文化祭2日目
初日をサボったちぐささんと二葉さんも、流石に今日は学校に来てくれた。
いや来てくれないと困る。だって今日は《Hazy Fog》のライブの日なのだから。
文化祭のメインホールとなる体育館から少し離れたところにポツリと立つ講道館で事前練習が許可された。ということで《Hazy Fog》が全員集合している。私含めて。私含めてだ。
『最後の確認だぞ。一曲目が『藁』で、二曲目が新曲披露だ』
『知り合いには人をたくさん呼んでもらうように声をかけたけど、期待しないでね』
『一人でもいれば十分だ。そいつが咽び泣くくれえのライブをすりゃいい』
『二葉 頑張る』
気合い十分といったところだ。
目下の問題は集客力。
それもあと少しで解消だ。
やるかやらないか迷った。でも、やるしかないと思った。
それだけ《Hazy Fog》が人気バンドになってほしいと思っているんだ。
『詩穂、どうしたの?』
異変に気がついたらしい狼奈さんが声をかけてきた。
「いえ、このライブを大成功させるために何ができるかなと」
『テメェは作詞をした。それでいいだろ』
「もうちょっとできることがあるなら、そうしたいと思っただけです」
『何かやることでもあるの?』
「それはまあ内緒で。成功するかわかりませんし」
『なんだそりゃ』
私のことは置いておいて、とりあえず練習を再開した《Hazy Fog》のみなさん。
相変わらず音は聞こえない。国星詩穂の人生において当たり前であるそれが、今になって初めて疎ましく思った。
ああ、一度でいいから《Hazy Fog》の曲を聴きたい。
もちろんこの世界に都合よく願いを叶えてくれる神様や天使などはいない。今日も明日も、私が死ぬまで、聞こえることはないだろう。
でも《Hazy Fog》が人気バンドになった未来の人類たち。羨ましいだろう。
私はいま、成長中の《Hazy Fog》の練習風景を見れているんだぞ。特等席でね。へへっ。




