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18話 文化祭1日目

 私立若宮坂高校の文化祭は、それなりに盛況するイベントらしい。地域のお年寄りから子どもたちまでが集まる密着型イベント、といえば通じやすいだろうか。


 そんなイベントが二日間にかけて行われる。肝心の《Hazy Fog》のライブは二日目のお昼にセッティングされた。


『……だからって、なんでアタシがアンタと文化祭を回るわけ?』


「他に回る方がいましたか?」


『いやいないけど』


「じゃあいいじゃないですか!」


『ちぐさや二葉みたいにバックれればよかったか』


 そうしないのは分かっていた。狼奈さんは不良に染まりきってはいないから。


 ちなみに春子さんは友達(だと相手は思っているのだろう。気の毒に)を何人も引き連れて校舎を練り歩いていた。みんなからは聖女のように映っているのだろう。私たちからしたらスケバンの行進だ。


『で、何がしたいわけ?』


「具体的にしたいことはないんですけどね」


『はあ? じゃあなんで巻き込まれたのさ』


「いいじゃないですか、友達と文化祭を回りたいなんて、普通の欲求でしょう?」


『友達……そっか。友達か』


 この子、まさか今になって友達であることを知った? いやそんな鈍いわけ……あるか。全然ある。そういうところが可愛い。


「狼奈さんのクラスでは何を出店するんですか?」


『知らない』


「まあそうですよね」


『そういうアンタのところは?』


「知らないうち聞こえないうちに話が進んでいったので私もわかりません」


『なんかごめん』


「いえいえ」


 つくづく社会性のない2人だ。というか《Hazy Fog》に社会性のある人間などいない。だからこそ生きづらさを吐き出している。


『ああもう何でもいいや。とにかく目についたもの全部楽しむよ』


「はい! それでこそ狼奈さんです!」


『何それ。ってかすごい人だね』


「土曜のイ○ンモールくらいは人がいますね」


『じゃあはい』


 狼奈さんは私に手を差し出してきた。


 その意味を理解するのに、3秒を要した。


「手を繋いでもいいんですか!?」


『こんな人混みで逸れたら厄介でしょ。特にアンタは』


「確かに大声も放送での呼び出しも聞こえませんからね。助かります」


 少々恥ずかしいながら、狼奈さんの手を取った。


 猛々しい狼奈さんの印象と違い、柔らかくて小さな手。

 こんな手で、生きづらい世界を生きているんだなあ。


『さ、行くよ』


「はい!」


 文化祭1日目。


 何も気にせず、何にも怯えず。

 ただひたすら純粋に、楽しむことができた。

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