17話 完成・結束
文化祭まで、あと3週間。
「できた……できたぁ!」
ついに作詞を終え、人生初の歌詞が完成したのだった。
あとはこれを狼奈さんに提出して、ライブを待つのみ。私の役目はこれで終わった。
「はあ、長いようで短い作詞期間だったなあ」
思えばかなり苦戦した。わざわざヒアリングしたり、足りないから呼び出されたり。
それでもこれは、みんなの吐き出したい思いを詰め込んだ歌詞になったはず。
スマホが震えた。狼奈さんからの返信だ。
『いいじゃん』
相変わらず色気のないメッセージだ。でも、好感触を持ってくれたことは素直に嬉しい。
「いいライブになるといいな」
生きづらさを吐き出したいだけだった。
でも今は、ほんの少しだけ《Hazy Fog》が人気バンドになって欲しい。そんな欲求がある。
そのためには……
……ああ、人間って面白いなあ。
◆
詩穂からもらった歌詞を、吐き出す。
アタシとちぐさがギターをかき鳴らし、春子がベースを奏で、二葉がドラムを叩く。
《Hazy Fog》の演奏技術は本物だ。学生バンドとしてはレベルが高いと自負している。
「みんな、ちょっといいかな?」
練習終わり、春子がアタシたちを呼び止めた。こいつの「ちょっといいかな」に反発できるものはいない。
「どうしたの?」
「私たち、かなりレベル上がったよね。あんまり素直に認めたくないけど、詩穂ちゃんの歌詞もいい感じだし」
「それで?」
「次の文化祭ライブが、これで食べていけるかどうかの分水嶺になると思うの。今は一億総インフルエンサー時代。拡散されて多くの人の目に留まればチャンスはあると思う」
「んなこと分かってんよ。やることは変わらねえ」
「ちぐさちゃんみたいな人はいいけど、私たちは繊細なの」
「おいオレのことバカにしているか?」
「褒めてるの」
「じゃいっか」
バカだ。言いくるめられて。
要するに春子はベストパフォーマンスを文化祭で出せよということなのだろう。こういうプレッシャーのかけ方は、春子が好むやり方だ。詩穂にもやっていたと耳にしたし。
「大丈夫」
「え?」
「二葉たちなら」
「大丈夫」
「いいメンバー、いい歌詞」
「うん、大丈夫」
確信したかのような物言いに、アタシたちはぷっと吹き出した。
それでもおかしなことは何一つなくて、ただ真っ直ぐに、ポジティブな気持ちを向けられた。
「そうだな、こいつの言う通りだ」
「変な演奏したらベース投げつけるからね」
「傷害事件じゃねえか」
「二葉たちなら、大丈夫」
結成してから初めてできた一体感。
文化祭が、迫る。




