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17/21

17話 完成・結束

 文化祭まで、あと3週間。


「できた……できたぁ!」


 ついに作詞を終え、人生初の歌詞が完成したのだった。


 あとはこれを狼奈さんに提出して、ライブを待つのみ。私の役目はこれで終わった。


「はあ、長いようで短い作詞期間だったなあ」


 思えばかなり苦戦した。わざわざヒアリングしたり、足りないから呼び出されたり。


 それでもこれは、みんなの吐き出したい思いを詰め込んだ歌詞になったはず。


 スマホが震えた。狼奈さんからの返信だ。


『いいじゃん』


 相変わらず色気のないメッセージだ。でも、好感触を持ってくれたことは素直に嬉しい。


「いいライブになるといいな」


 生きづらさを吐き出したいだけだった。

 でも今は、ほんの少しだけ《Hazy Fog》が人気バンドになって欲しい。そんな欲求がある。


 そのためには……


 ……ああ、人間って面白いなあ。



 ◆



 詩穂からもらった歌詞を、吐き出す。


 アタシとちぐさがギターをかき鳴らし、春子がベースを奏で、二葉がドラムを叩く。


 《Hazy Fog》の演奏技術は本物だ。学生バンドとしてはレベルが高いと自負している。


「みんな、ちょっといいかな?」


 練習終わり、春子がアタシたちを呼び止めた。こいつの「ちょっといいかな」に反発できるものはいない。


「どうしたの?」


「私たち、かなりレベル上がったよね。あんまり素直に認めたくないけど、詩穂ちゃんの歌詞もいい感じだし」


「それで?」


「次の文化祭ライブが、これで食べていけるかどうかの分水嶺になると思うの。今は一億総インフルエンサー時代。拡散されて多くの人の目に留まればチャンスはあると思う」


「んなこと分かってんよ。やることは変わらねえ」


「ちぐさちゃんみたいな人はいいけど、私たちは繊細なの」


「おいオレのことバカにしているか?」


「褒めてるの」


「じゃいっか」


 バカだ。言いくるめられて。


 要するに春子はベストパフォーマンスを文化祭で出せよということなのだろう。こういうプレッシャーのかけ方は、春子が好むやり方だ。詩穂にもやっていたと耳にしたし。


「大丈夫」


「え?」


「二葉たちなら」


「大丈夫」


「いいメンバー、いい歌詞」


「うん、大丈夫」


 確信したかのような物言いに、アタシたちはぷっと吹き出した。


 それでもおかしなことは何一つなくて、ただ真っ直ぐに、ポジティブな気持ちを向けられた。


「そうだな、こいつの言う通りだ」


「変な演奏したらベース投げつけるからね」


「傷害事件じゃねえか」


「二葉たちなら、大丈夫」


 結成してから初めてできた一体感。


 文化祭が、迫る。

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