表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

16話 足りないもの

『じゃあアンタの目的も済ませたことだし、今度はアタシの予定ね』


「あれ、そもそも何しに集まったんでしたっけ」


『……アンタには責任感があるのかないのかどっちなわけ?』


 ああ、そういえば歌詞についてダメ出しされるんだっけ。


 狼奈さんにアウトプットノートを見せたら、『足りない』と返信が来た。その意味は未だわからないけど、今からのダメ出しで判明するのだろう。


『とりあえず……あー、どこで話そう。カフェはうるさいし、もっと客層のいい場所がいいんだけど』


「それなら私、心当たりがありますよ。値は張りますけど」


『……甘いのある?』


「ありますあります」


 甘党少女め。



 ◆



 ここはシックな木目調の壁が高級感漂わせる、チョコレート専門店だ。名前は『CODIVA』。うん、名前を聞くだけでワクワクする。


 この店には基本的に高校生たちは来ない。若くても大学生で、ボリューム層は20代後半のレディたちだ。


「チョコレートラテを2つお願いします」


 おすすめのチョコラテを購入して、一つを狼奈さんに手渡した。カップからカカオのいい香りがして、さながら16世紀ヨーロッパの貴族になった気分だ。


「それで、足りないとは具体的に何が足りないのでしょうか」


 くどくど回り道をするのは性に合わない。なのでどストレートに本題に切り込んでいく。


 少し面食らった表情の狼奈さんだったけど、カップから口を話してひと言。


『アンタの生きづらさ、入ってないじゃん』


「アンタの……って私のことですか?」


『他に誰がいるのよ』


 今度はこっちが面食らった。


 いやいやいや、だってこれは《Hazy Fog》の歌であり、《Hazy Fog》の生きづらさであり、《Hazy Fog》が吐き出すものだ。そこに私の生きづらさを入れたら別物になってしまう。


『まさかアンタ、《Hazy Fog》に入っていないつもりなの?』


「《Hazy Fog》に入る!?」


『当たり前でしょ! 作詞担当だって立派なメンバー。だったらアンタの……詩穂の生きづらさだって入れるべきじゃん』


 ポロリと、一粒の涙が目から落ちたのがわかった。


 そんな私を見て、狼奈さんが柄にもなくあたふたとしている。


『あ、あれ? 嫌だった? え、ごめ……』


「違う……違うんです。私、何かに所属できたことなんてなくて。誰かに立派なメンバーなんて言われたことなくて……」


『アンタは立派な《Hazy Fog》のメンバーだよ。っていうか誰よりも真面目に《Hazy Fog》に向き合っているでしょ。アタシたちがずっと避けてきた、アタシたち自身に』


 狼奈さんは続ける。


『だからアンタの生きづらさも一緒に吐き出させてよ。アタシに狼奈の、春子の、二葉の、ちぐさの、そして詩穂の生きづらさを吐き出させて!』


「はい……はい!」


『よし。それが言いたかったの。文化祭ライブまであと1ヶ月。絶対にいい曲作って、全員の度肝を抜くライブにしてやるから』


 そう言った狼奈さんはどこか狼のように、猛々しくも凛々しい、そんな姿に映った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ