15話 初めてのお出かけ
ナチュラルに遅刻してきた狼奈さんは、黒ジャージ姿というなんとも味気ない姿だった。淡いブルーのシャツワンピースなんか着た私の気合いを返してほしい。
「えっと、それで今日はどこにお出かけを?」
『お出かけ?』
「え?」
『えっ?』
静寂。
次の瞬間。
『いや、歌詞の打ち合わせしたいだけだからここでいいけど』
「う、ううっ、ふええ……」
『え、ちょなんで泣いて……ええっ!?』
私は泣いた。なんかわからないけど、すごく辛かった。
◆
『いやごめんって。確かに可愛い服で来てくれたのにすぐ帰るはよくないよな。ごめん』
「可愛い? 可愛いですか?」
『ああうん。可愛いけど』
それが何か? といった様子の狼奈さん。思ったことをさっぱり言えるのはさすがだなと思う。
『で、どこ行きたいの?』
「……さあ?」
『はあ?』
「だ、だってお友達とお出かけなんて初めてのことですし。そういうのは狼奈さんにリードしてもらおうと思って……」
『いやアタシだって初めてなんだけど』
……初デート、完。
いや完。ちゃうわ。
「ど、どうしましょう。とりあえず春子さん呼びますか?」
慣れてそうだし。
『あいつがいると飯がまずくなるし胃がキリキリするから嫌だ』
「今さらですけどよくバンド組んでますね」
この仲の悪さがいい音楽を生み出しているのだろう。芸術とは複雑だ。
『悩んだって仕方ない。とりあえずアタシがよく行くスポットに連れて行くから。それでいい?』
「はい! それがいいです!」
狼奈さんがよく行く場所かあ。どんなところだろう。
ダークな雰囲気漂うライブハウスで勉強というのもイメージに合うし
甘党だからスイーツパラダイスとかも可愛くていいかも。
『着いたよ。ここだ』
「げ、ゲームセンター!?」
クレーンゲームやアーケードゲームがみっちり並んでいるゲームセンターだ。本格的。スーパーの端っこにあるゲームコーナーとはわけが違う。
イメージ通りといえばイメージ通りだけど、なんか意外性を期待した自分が恥ずかしくなる。
『うるさくて会議には向いてないけどね。いつもの2割増で喋ってよ』
「あ、はい。うるさいんですねゲームセンターって」
相変わらず無音だからわからないや。
それにしても可愛い服を着て来た女の子を連れて行くのがゲームセンターって。
そんなところがオオカミっぽくてカッコいいんだけどさ。
『なにか欲しいものある? ぬいぐるみとか』
「サプライフィギュアは欲しいですね」
『……なんでそんなに詳しいんだよ』
ネットで情報だけは集めていましたから。
私、国星詩穂はこう見えてそこそこなアニメ好き。フィギュアだって欲しくなるのです。
「あ! 吸血鬼フィギュアシリーズ第二弾、吸血姫ブラッディ!」
クレーンゲームの景品に置かれていたのは、銀色の髪を靡かせ紅蓮の瞳を燃やすブラッディというキャラクターのフィギュア。
『あれが欲しいの?』
「ずっと昔から追っていましたから欲しいですね。うう、取れるかな」
『やってみな』
「は、はい!」
100円を入れ、プレイスタート。まずは右にズラすボタンを押して……
「あれ? 一回押したら右に動かなくなっちゃいました!」
『ぷっ、ふふ……』
「あー! ひどい狼奈さん笑ってる!」
『いやだって、普通わかるじゃん。長押しだよ』
「分かりませんよそんなことー! ああ私の100円が!」
反省を活かしてプレイするも、フィギュアは取れる気配がない。
500円……1000円と無駄になっていく。ああ体温が上がって呼吸が速くなる。これがギャンブル?
『はあ、任せてみな』
「狼奈さんやってくれるんですか?」
『見てられないって』
狼奈さんがプレイすると、まるで嘘のようにフィギュアが大きく動いた。
そして300円目。ついに……
ゴトッ!
ブラッディのフィギュアが受け取り口から姿を現したのである。
「すごーい! さすがゲームセンター慣れしているだけはありますね!」
『褒めてんの? バカにしてるの?』
「褒めてますよー」
『それあげるから。大事にしなよ』
「はい! ありがとうございます、狼奈さん」
『ん』
狼奈さんは照れくさそうにそっぽをむいた。