14話 狼奈から召集
書ける。
書ける書ける書ける!
いや内容が内容なだけに歓喜するわけではないけど、ともかく歌詞が書けるのはいいことだ。
ヒアリング調査の後、私はいそいそと帰って作詞を始めた。
本来ならスタジオ練習も見ていくべきなのかもしれないけど、楽器の音が聞こえない私は長居しても仕方ないと判断して帰らせてもらった。
ノートに彼女たちの生きづらさを綴り、まとめ、アウトプットを重ねる。
1週間が経った頃には、ノート見開き1ページがびっちり埋まるほどの生きづらさが綴られていた。お母さんに見られたら病んでると本気で心配されそうなクオリティだ。
「ん?」
ぶるっと机が震えた。
スマホに目を向けると、数日前(無理やり)連絡先を交換した狼奈さんからメッセージが届いていた。
『順調?』
本当に華のJKか? と疑いたくなる簡素な文章だ。娘との距離感を測りかねている父親みたい。
返信返信っと。
『順調ですよ(^.^)。これからしっかり形にする予定です♡。あ、Hazy Fogのみんなでご飯行きませんか(^o^)/』
これこれ。これぞJKのメール文だよ。
あ、もう返ってきた。
『行かない。あとその文オヤジくさい』
「おやっ……!?」
そんな……初めて友達とメールするっていうからしっかりXで有識者の方からメールの作法を教えてもらったのに。
『歌詞見せて』
追加のメッセージだった。まだ形になっているわけじゃないけど、とりあえずノートを見開きで送ればいいかな?
ノートの写真を送るとすぐにまた返信がきた。
『足りない』
「足りない……? 何がだろう」
『明日12:00駅集合』
「え、えっ?」
一方的に私の予定を埋めてきた狼奈さん。
そりゃまあ私には休日を過ごす友達なんていないからいいんだけど、それにしても大胆な行動だ。
狼奈さんが何を思い何を考えているのかわからないけど、とにかく召集されたのなら応じるしかない。
……でもこれ地味にデートだよね。えへへ、人生初デート。どんな服着て行こうかな。
◆
残暑も乗り越えられる爽やかブルーのシャツワンピース、ホワイトのカバン、新品のヘアオイル。
デートの準備は完ぺき。30分前に着いたのは気持ちが早まりすぎたかもだけど、こういうのは狼奈さんだって早く来るでしょ。
40分後……
『お待たせ。待った?』
「早く来ましょうよこういうのは!」
『ええ?』
私のわくわくを少し返して欲しかった。
普通こういうのはどっちも早く着いちゃったね、えへへ。のハッピームードでしょうが。