13話 幕間のじゃんけん
「じゃあせめてお一人ずつ時間をもらって、ヒアリング調査をさせてくれませんか?」
そう言い放った詩穂をスタジオにある休憩スペースへと追い出した。理由は単純。ちぐさが「お前に主導権を握らせるか」とか言い出したからだ。
「で、どんな順番にするつもりなんだ?」
「ああ? …………」
考えてなかったな、こいつ。やっぱりバカだ。
「私は一番は嫌だなあ。二葉ちゃんどう?」
「私も嫌」
「そっかー」
一見和やかなやり取りだが、春子は嫌なものを二葉に押し付けているだけだ。そして二葉はそれに気が付かず、「譲ってくれる春子は優しい」と本気で思っている。すごい関係性だ。
「どうすんだよ。バックレるか?」
「授業じゃないんだぞ。詩穂がいい歌詞のためにやってくれるんだから協力しろ」
「けっ。優等生になったもんだな狼奈さんよお」
「はいはい喧嘩しないの」
口うるさい私たち3人の口論は続き、いつあの黒髪サイドテールが乗り込んでこないかとヒヤヒヤした。
平行線の議論が終わったのは、二葉がそわそわしたことに春子が気づいた時だった。
「二葉ちゃんどうしたの?」
「二葉」
「じゃんけんしたい」
「じゃんけんしたい?」
「誰かとじゃんけん」
「したことないから」
「ケッ、そんなもんオレだってガキの頃から10年はしてねえぞ」
「二葉は一度もしたことない」
「よ、よーっしじゃんけんするぞお前ら」
あまりに気まずい告白だった。さすがのアタシでもじゃんけんくらいは経験している。ちぐさも同様のようだ。
二葉の願いを叶えるべく、春子もため息を吐きながら拳を掲げた。
「よっしゃ行くぞ。じゃん、けん」
「「「「ぽん」」」」
アタシらの仲はよくない。
でも別に、極悪人がいて、ギスギスし続けているわけではない。そんな気がしてきた。




