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リミックスライフ  作者: SPECIAL BAY
2/12

『リミックスライフ』 本編 その1

本編



映画が始まった―

4人はスクリーンに注目した。



注(ここからは映画の物語、つまり、『リミックスライフ』の本編が始まります。そのため、ここまでとは別の物語が始まると思って読んで欲しいです。途中、客席で映画を見ている流湾の視点も出てきます。)





『リミックスライフ』



それは人生の音楽を新しく料理すること。

あなたに心躍るような毎日を。




私は今、夜の歩道橋から車のライトがつくりだす光の宝石を見ている。時刻は23時。街が賑やかに動いている。歩道橋の上から空を見上げた。空には星がない。真っ黒な空に街の灯りだけが伸びていた。都会の空。キラキラと輝く街。田舎にいたころとは違うようなビルとアスファルトの境目で。街へ出かよう。



私の名前は青町(あおまち)。数年前に都会に移り住み、ちょっとした会社に勤務している。帰り道にコンビニによってチキンを買った。これはこれでうまい。これでいい。帰り着いたら寝る。もう疲れたから。そんな生活をしている。



青町は、都会の風景に溶けて音楽を考えていた。この町ならあの頃と違う音楽がつくれると思ったからだ。青町は音楽が好きで高校生の時からギターを持って音楽をつくっている。学校から帰りつくといつもアコースティックギターを持って山に向かって歌っていた。今は安いアパートの一室にいるため、大きな音は出せない。だから、DTM (デスクトップミュージック)というのか、パソコンのソフトで音楽を編曲することを主に趣味でしている。



青町は最近、EDM (エレクトリック・ダンス・ミュージック)に興味を持っている。この町でなら素晴らしいダンスミュージックをつくり、ダンスが踊れる歌をつくれると感じている。人々はみんな踊って、街の明かりはダンスフロアのよう、歩くスピードもリズムを刻んでいた。通りすがりのミニスカートの女子高生と酔っているような大人たちの狭間を通り過ぎてそんな町の光と闇を感じていた。



休みの日、とても遅く目覚めた。疲れがとれない。テレビはある芸能人のスキャンダルで大騒ぎ。テレビを消してスマホの動画は荒れ狂ってごちゃごちゃで。コメント欄は小学生の悪口と落書き。消してイヤフォン。音楽を聴いた。



青町は自分が過去につくった歌を聴いていた。何も気にすることもなく大声でがむしゃらに歌っていた。なんだかいいな・・と一瞬、思ってとどまる。ただ、何回も聞いた自分の歌に愛着を覚えているだけだと気付き、他人からすればただの雑音なんだと思った。雑音でいい。なんでもいい。歌詞なんてどうでもいい。ノリさえあれば、リズムさえあればいい。楽しく踊って生きていればいいじゃないか。嫌なことを忘れて踊ればいい。自分がちょっと真面目すぎるかもしれない。ノリでいいんだ。過去とかもうゴミ箱に投げて焼却炉で燃やして、振り返る必要はない。今この時に楽しく踊れる音楽をつくりたい。青町はそう思っていた。



青町は決めた。自分のつくりあげてきた人生の音楽をリミックスしようと。




今日も青町は会社に向かった。徒歩と満員電車。人々はピリピリとしていた。それはそうだろう。自分も朝の通勤にピリついているのだから。他の人々も同じような気持ちなんだろう。ストレスを押し固めた電車、ある人はスマホの世界へ逃げて、ある人は現実から身動きがとれない中、女子高生のスマホから流行りの歌が流れてきた。その歌はしばらく続いた。音楽も窮屈そうで窒息しそうになっていた。息の根を止められたように止んだ音楽。音楽を止めた女子高生は少し恥ずかしそうな素振りをしていた。少し不思議に感じる音楽だった。

あの歌はなんだろう?

流行りの歌のようでどこか懐かしいようでそれが何の歌なのかは分からなかった。そのまま、電車は次の駅に着いた。電車はオフィス街の駅で人々を吐き出した。ものすごい勢いである。吐き出された人々は急いで目的地へと向かった。苦しそうな電車はやっと少し楽になったみたいである。



青町は、電車を降りて町を歩いていた。会社までの道のりである。古本屋に楽器屋、高いオフィスビル。青町はそのビルの中に無言で入っていった。



さぁ ここからは仕事だ。切り替えていこう。青町は笑顔をつくり、上司や同僚に挨拶をし、引継ぎやメール、書類に目を通した。そしてパソコンの画面に数字や文字を打ち込んだ。打ち合わせの準備をした―



そうこうしているうちに今日も帰る時間となった。少しの残業となったが、これくらいならいいかと思った。しかし疲れた。いつも、この繰り返しで自分が子どもの頃に夢見た仕事とは全然違う。人生、そんなに甘くないってコーヒーを飲む。コーヒーの苦さはあまり感じなくなっていた。苦い世界になれてしまった。なんだか切なくもなる。同僚だって同じ気持ちを抱いていた。



同僚の生地丘(きじおか)である。生地丘は、青町に言った。


「オレはいずれこの会社を辞めて、自分の会社をつくるよ! 今はその勉強をしているんだ。」


生地丘は、本当にそればかり言っている。本当、何にでもやる気があるやつで自分は学びたいことがたくさんあると言って、たくさんの本を読んでいるみたいである。その頑張っている姿勢。だけどどこか空回りしていそうなところが不安にもなる。なんだかその姿をみると負けたくないという気持ちにもなる。

しかし、アイアムルーザー。

青町はもう夢に負けてしまって、希望を語る気すらしなくなった。でも、一つ心残りがあった。賞味期限切れかもしれないが、つくりたい音楽がまだ残っていた。



少し前にいた同僚の神沢かみざわは体調不良を理由に会社を退社した。とても優しい目をしたやつだった。いいやつだったが満月のように儚げだった。満月は目で見れば綺麗に見えるが、安いカメラのレンズを通して写真にしてしまえばただのぼやけた光の塊になる。神沢もそれと同じだった。社会のレンズを通してみたら、ただの仕事のできないぼやけた塊になっていたのだ。もう満月は欠けてしまった。地元に帰っていった。うつ病と診断されたらしく、自宅で療養しているみたいだ。



神沢がまだ会社にいた頃、相談してきたことがあった。

「もう人生がつらいし、生きていける自信がない。」と。

青町は驚いた。神沢がそんなことを急に言ったから。確かに神沢が苦しそうにしているのは知っていたし、そう思っていてもおかしくはなかった。でも、いざ言葉にして言われると重く感じた。頼ってくれたのは嬉しかったがどうしていいのか分からなかった。それに神沢の苦しんでいる状態と自分の現状を比べて、自分の方がマシだと安心している部分もあった。そんな青町はその言葉に返した。


「そんなこと、言うなよ・・。オレも結構、つらいんだよ・・。きついのは当たり前。こんな時代なんだから・・。どうにかなるだろう。」


この言葉の返しは合っていたのだろうか? 神沢はその数か月後に退社した。



実家に帰った神沢から連絡が来たことがある。その時に神沢はこう言っていた。


「僕にはもう何にもない。何もしていない。ニートになってしまった。生きている価値はあるのだろうか? 何にもやる気が出ないんだ。それでも、青町くんとは話がしたくて。」


その言葉にまた戸惑いつつも返した。


「神沢は頑張りすぎているんだよ。深呼吸して、一回、鏡を見てみなよ。オレの瞳は輝いていない。汚れてしまっている。そんな目で神沢にもひどいことを言ってしまったかもしれない。でも、神沢の瞳は輝く。オレは知っている。輝くことを。だから今はとにかく休め。全力で何も考えずに休め。考えそうでも休め。きっとそうすれば、瞳が輝く力を取り戻し、何か見えると思うから。その時でいいと思う。今は休めばいいんだ。」


青町はちょっとばかり、神沢に配慮してか、配慮していないのか分からないが、変なことを言ってしまった。そんな変な言葉でも神沢は少し声が明るくなって言った。


「青町くんの声を聞いたら、少し元気が出てきたよ。ありがとう。青町くん。青町くんも大変だと思うけど頑張ってね。そういえば、青町くんがつくっているって言っていた音楽が気になるんだけど、それってどこかで聴けるの?」


神沢はいきなり音楽のことを話し出した。青町は少し驚きつつ言った。


「音楽の話を覚えていたのか・・。動画投稿サイトで聴けるよ。あとでURLを送るから。暇なときにでも聴いといて。」


「絶対に聴くよ。前に少し聴かせてくれた歌が頭から離れないんだ。それじゃ。また会えるといいね。突然、電話してごめんね。またね。」


「またな、体調に気をつけなよ。」


こんな会話だった。



今日も夜の町を歩いていた。「夜は遊びに行かないのか? いい店知っているよ~。」そんなことを言ってくる人々を横目に、特にそういうところへ行く気もなかった。早く帰りたい。踊る町を通り抜けていつものアパートで眠りについた。




なにか、新しいことをした方がいいのかな? なんて思う。SNSの中では目に見えないところも曝け出すこともあるがそれもなんだか違う気がする。暗い人間でもないし、ただ明るい人間でもない。このいくつにも分裂する自分をアイデンティティの拡散と呼ぶにはもう大人になっている。そんなことはとうに理解している。全部、含めて自分だ。大人になった分、何かを捨てていた。あの頃、決めた自分のルールはことごとく崩れ去っている。

もう大人だ。きっと・・。



大人になりなよ―



休日になり、青町はパソコンを開いた。自分がつくった歌のファイルが並ぶ。誰も知らないその歌を作曲ソフトの帯に広げた。自分の声を切り刻み、リズムにのせる。誰にも好まれないような音楽が出来上がる。とにかく激しく、毒になればいい。知識を知らない青町は、絵の具を直接、画用紙に押し付けるように音楽をつくりだした。

「さぁ どうだ?」

そう、うまくはいかない。どうも、絡まってしまうリズム。社会と同じくリズムにのれない音楽はただただ耳の中から乱れた振動を送り続けていた。



 もう粉々に忘れてしまいたい。

 どうせ叶わぬ夢。

 過去の苦しみ。



青町は文字を打ち込んで消した。



結果論的な先入観に囚われて、過去はあの頃とは違う見方ができたり、ピークエンドの法則によって心が動いたときのことを鮮明に覚えていたり。



あのバラードの歌詞もダンスミュージックにのせてしまえばいい。リズミカルなところを強調すればいい。



あれもこれも人生の全てをリミックスしよう!




「でも、オリジナルが良くないのなら、リミックスしても良くないのでは? そんなに素晴らしいものをこれまでつくりあげてきましたか? 所詮、お前には才能がない。」


「お前には才能がない! お前には才能がない! お前には才能がない!!」


「うるさい!!」



青町は迫り来るような自分の声をかき消した。才能がないのは知っている。それでも悔しかった。悔しくて、活躍するスポーツ選手も、有名なアーティストも優秀な経営者も全部、才能と呼ばれる人たちを見て見ぬふりして自分の世界を信じた。その信じた世界は退廃した遊園地のよう。錆びて動かないアトラクション。青町はそこにずっと佇む孤独な亡霊。



「お前には才能がない!」



青町は車を借りて、その車に乗って郊外の方へ走った。車のスピードに会うようなリミックスの音楽をかけていた。DJ にでもなったと思うような気持ちで音楽を流していた。景色が流れるスピードと音楽のスピードが重なるとき、気持ちのいい風が吹いた。もっと遠くへ連れ出してくれ。

どこまでもどこまでも。ここじゃないどこかへ。


もう飽きてしまったよ。この生活に―。





 一方、客席では―


流湾は今朝、あまり眠れていなかったので少し眠気を感じていた。それにシリアスなシーンが続いたこともあり、感情移入するような、しないような、眠いような気持ちになっていた。我慢していたがあくびをしてしまった。暗闇で誰も気づいていないのでセーフである。



あの主人公の青町を演じている方が、さっき陽呼子が言っていた俳優の影法師である。影法師はやはりイケメンである。だいたい、映画の主人公はイケメンが多いがこの映画もまたイケメンである。これからかっこいいシーンがあるのだろうか? それともこの現代社会を彷徨っている人をうつした暗いシーンが続くのだろうか。分からなかった。


流湾は横に座る陽呼子がどんな風に見ているのかが気になった。しかし、暗闇で全く分からない。唯一、分かることは鮫郎がポップコーンを映画の最初からずっと食べていることだけである。鮫郎は違う映画を見ているんじゃないかと思うくらいにおいしそうにポップコーンを食べていた。本当は流湾もジンベエザメが冒険する映画が見たかった。そのため、ちょっとこの映画を見るのにきつくなってきている。しかし、あの陽呼子がみたいという作品なのだから、それはきっと意味がある映画なのだろう。



主人公の青町は音楽をつくっているみたいである。それは陽呼子と同じである。主人公の青町は才能の無さに悩んでいるみたいである。流湾と同じである。

陽呼子は何を思ってこの映画を見ているのだろう?

そんなことが気になってしまった。


ここからの映画の続きは陽呼子の目線で映画を見ることにした―



(つづく)

読んでくださってありがとうございます!!


次話に続きます!

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