④ 後悔しないために
私は寝室でやっと床に両脚をつけて立つことを許された。
それから、息が止まりそうなほど力強く抱きしめられた。
「嫌なわけがないだろ……ずっとこうしたかったのを、どれだけ我慢していたか」
耳元で囁かれる欲情にまみれた声に、私は背筋がぞくぞくとした。
「レオ……俺はおまえを愛してる」
紫紺の瞳が私を射貫くように真っすぐに見つめた。
「私も、愛してるよ、マックス……」
マックスは少し体を離して、私の肩を撫で、髪を一房手に取った。
「これ、エルシーランで買ったドレスだな。とても似合っているよ。おまえの肌と髪の色によく合ってると思う」
「覚えててくれたの?嬉しい……」
次にこのドレスを着た時に、似合うって言ってくれると約束していたのだ。
嬉しくて、私の頬が緩んだ。
「当たり前じゃないか。エルシーランで見た時から、どうやって脱がせようかとずっと考えていた」
え?なにかすごいことを言われたような?
「このドレスは前にボタンがあって脱がせやすそうだ。そういう意味でも、いいドレスだな」
私がこのドレスを選んだのは、似合ってるって言ってほしかったのと、正に今マックスが言ったような理由ではあるんだけど……マックスがそんな不埒な目でこのドレスを見ているとは思わなかった。
「……そんなこと、考えてたんだね……」
「あの時から、いつかこのドレスを脱がせるのを楽しみにしていた」
紫紺の瞳は欲情と苦い色で揺れていた。
「正式に結婚してから、そうするつもりだったが……俺は、後悔したくない。おまえにも後悔してほしくない。だから……今日、全部俺のものになってもらう。いいな?」
私は頷いて、マックスの手をとり私の頬に押しつけた。
「いいよ、全部あげる……だから、マックスも、私のものになって?」
「俺は、もうずっと前から全部おまえのものだよ」
そう言うと、マックスは私の頬にあるのと逆の手で、その仮面を外した。
久しぶりに見る仮面のない素顔だった。
「怖くないか?」
左頬にある赤い模様に、私はそっと手で触れた。
「怖くなんかないよ。前にも言ったでしょ?私は、初めてこれを見た時から……きれいだなって思ってたよ」
燃えるような赤い髪と同じ色で、その紫紺の瞳の美しさを際立たせるようで。
私は背伸びをして火竜の紋にそっとキスをした。
仮面が床に落ちる乾いた音が薄暗い室内に響いた。
前世で私は処女ではなかった。
ただ、私をボロボロにして捨てた婚約者としか関係をもったことはなかった。
あの婚約者とのことは、マックスからの愛情を感じるたびに遠い過去へと遠ざかっていくようで、もう思い出しても胸が痛むことはない。
今の私は、マックスがほしくてしかたがない。
こうして、私たちは一つになった。




