⑲ 私は舞台装置
一曲目が終わると、次は私たちの出番だ。
「マックス、大丈夫だよ。私がリードするからついてきて」
「……本当は、俺がおまえにそう言わないといけないんだろうが……」
「どっちでもいいじゃない。練習通りにすればいいから」
陛下の側近たちと、私とマックス、それからキアーラとエリオットが組んで踊りだした。
お願いしてあった通り奏でられたのは緩いテンポのワルツで、マックスも危なげなくステップを踏むことができた。
私とキアーラは、ジークの側近三人、それからシストレイン子爵とファーガス兄様とカイル兄様の順番に踊った。
最後は私とキアーラでくるくると踊り、会場を盛り上げた。
曲が終わると、私はキアーラをジークのところまでエスコートして引き渡し、ジークはまた蕩けるような笑顔でキアーラの手の甲にキスをして、それから自分と同じ色の私の髪を撫でた。
私たちは会場中からの視線を集めているのをひしひしと感じながら、ジークと私でキアーラを挟んで笑いあって、これでもかというほど仲良しアピールをした。
私と王妃様とキアーラのドレスは、たくさんの人で溢れる会場内でもとても目立っている。
私たちがアクセサリーまでお揃いにしているのに気がついた人も多いはずだ。
これによりキアーラが既に王家に受け入れられていることをはっきりと示すことができ、私も自分の役割を無事に果たすことができてほっと胸を撫でおろした。
私はジークとキアーラがまたダンスに戻ったのを見届けて、きょろきょろとマックスの姿を探した。
長身で赤い髪のマックスはすぐに見つかった。
マックスは……複数の令嬢に取り囲まれ、遠目にも困った顔をしていた。
慌てて救助に向かった私は、取り囲んでいる令嬢たちが全員知っている顔だということに気がついた。
「あ!レオ様ですわ!」
一人が私に気がつき声を上げると、今度は私をわっと取り囲んだ。
全員、私を学園で取り囲んでいた女の子たちだった。
みんな鮮やかなドレスで可愛らしい装いになっている。
「レオ様!そのドレス、とても素敵ですわ!」
「髪飾りも!貝殻でできているのですか?なんてきれいなのでしょう!」
「ハインツ様の色ですわね。とてもお似合いで、羨ましいですわ!」
まずは私の身に着けているものについて褒めてくれて、それからすぐに一番気になる話題へと移った。
「レオ様は、王太子殿下とキアーラ様のこと、ご存じだったのですか?」
「知っていたよ。秘密にしててごめんね。キアーラの穏やかな学園生活のためだったんだよ」
「わかりますわ。もし在学中に発表されていたら、キアーラ様はどうなっていたか……!」
「それにしても、キアーラ様とは……流石王太子殿下、お目が高いですわね」
「そうですわね。びっくりしましたけど、納得もしましたわ」
ここにいる令嬢たちは、キアーラの友達でもある。
みんな驚きつつもキアーラを祝福してくれているのが嬉しい。
「ジークもキアーラも、今とても幸せそうなんだよ。でも、キアーラはこれから大変な立場になる。みんな、応援してあげてくれないかな?」
「もちろんですわ!私たち、今度王城で侍女になる試験を受けようと思っているのです。もしかしたら、王太子妃になったキアーラ様にお仕えできるかもしれませんわ」
「それはいいね!キアーラも喜ぶよ。試験頑張ってね」
学生時代からの友人が身近にいてくれたら、キアーラも心強いことだろう。
それは大歓迎なんだけど。
「あの、レオ様。ハインツ様をダンスにお誘いしてもよろしいでしょうか……?」
頬を染めてもじもじしながら、一人が申し出てきた。
他にも何人かマックスをちらちらと盗み見ている娘がいる。
案の定ではあるけど、こういうのはちょっと困る。
どう考えてもマックスは知らない令嬢とは踊れないからね!
「ごめんね。もうジークのところに行かないといけないんだ。それでマックスを呼びに来たところなんだよ」
「あら、そうなのですね。お引止めして申し訳ありませんでした」
「いや、いいんだよ。それじゃ、またね。夜会楽しんでね」
そう言って囲いを抜けて、私は少し離れたところでこっちを見ているマックスの元に向かった。
「やっぱり女の子が寄ってきてたね」
「いつもだったらさっさと逃げ出すんだが……あれは全員おまえの友人だろう?無下にもできなくて困ったよ」
「マックスと踊りたかったみたいだよ」
「勘弁してくれ。絶対無理だ。ああ、でも……」
マックスは踊っている人たちの方を視線で示した。
「おまえが踊りたいのなら、つきあうよ。せっかくのデビューだからな。どうしたい?」
私のために頑張ってくれようとするマックスに私は嬉しくなった。
でも、今はダンスよりも優先したいことがある。
「ダンスはもういい。それより、お腹空いた!なにか食べようよ」
広間の一画には王城の料理人が腕を振るった豪華な料理が並べられている。
普段は食べられないような料理がたくさんあるとアリシアさんに聞いて楽しみにしていたのだ。
「わかった、そうしようか。おまえらしくて助かるよ」
「そうでしょ?早く行こう!」
色気より食い気というか、私はもう婚約しているから不特定多数の男性とダンスしたりして結婚相手を物色する必要もない。
さっさと婚約しておいてよかったと心から思った。
聞いていた通り料理はとても美味しくて、彩りも鮮やかに盛りつけられており、私は今後の料理の参考にしようとじっくり観察しながら味わい、マックスと二人で端から端までお腹いっぱいになるまで食べまくった。
もしかしたら、この夜会で一番料理を堪能したのは私たちかもしれない。
あれが美味そう、これも食べたいと言い合いながら料理を選んで食べるのはとても楽しかった。
「あ、あれ飲んでみたい!」
「ダメだ!あれは酒だぞ」
「いいじゃない、もう成人したんだし」
「ダメだ!こんな野獣だらけのところで酔っぱらわせられるか!」
「そんなぁ。ていうか、野獣なんてどこにいるの?」
「いいから諦めろ。ほら、こっちのジュースでも飲んでおけ」
料理は大満足だったけど、お酒はマックスに断固阻止されてしまったのは不満だった。
一部の貴族から反発があったけど、それもすべて予想の範囲内に収まるもので、キアーラはジークの婚約者として概ね良好に受け入れられた。
お掃除魔法のおかげである程度名が知られていたのと、ドレスなどによる演出が効いたようだ。
舞台装置として私も貢献したかいがあったというものだ。




