⑮ 襲撃
そんなことを話しているうちに、騎士団の詰所についてしまった。
襲撃もなにもなく、肩透かしを喰らった気分だ。
「話は僕がするからね。まだ油断してはいけないよ」
マックスは警戒のため外に残り、ジークは詰所にいた騎士に事情を説明した。
「な、なんだと!?今ここには騎士が三人しかいない!他の場所で問題が起こったということで出払ってしまったんだ!」
ジークと話していた三十代くらいの騎士は顔色を変えた。
「あらら、思ったより用意周到な賊なようだね。そこまで根回しをしたってことか。まぁ、気持ちはわかるけどね」
私も気持ちはわかるよ。
ジークを売ったらとんでもなく高値がつくだろうからね。
「師匠!きたぞ!」
直後にマックスの声が響いた。
「レオノーラ姫、詰所全体に魔力障壁を。できるね?」
「できます!ここは私が守りますから!」
「頼んだよ。さて、久しぶりに働いてきますか」
青ざめている騎士と対照的に、どこか楽し気なサリオ師は悠々と外に出て行った。
私は魔力障壁を展開し、慌ててサリオ師の後を追おうとした騎士を呼び止めて傷薬や回復薬の保管場所を教えてもらった。
後で怪我をした人の手当くらいは私がしてもいいだろう。
「なるほど、そういうのも後で必要になるかもね。レオは準備がいいな」
ジークが感心していると、外から剣戟と怒号と悲鳴が聞こえてきてクラークさんが縮こまった。
「ひ、姫様ぁ……」
「クラークさん、巻きこんでごめんなさい。本当に大丈夫だから。師匠は剣聖だから」
「け、けんせい……?け……剣聖!ええ!?あのおじさんが、剣聖!?」
クラークさんは驚愕に目を見開いた。
「僕たちに剣を教えてくれた師匠でもあります。いつもは気のいいおじさんですけど、信じられないくらい強いですから、心配しなくても大丈夫ですよ」
これで私とジークが余裕綽々なのも理解してくれるだろう。
「ジーク、念のため私たちも外を見ておこう」
「そうだね。クラークさんはここにいてください」
「は、はい!」
私とジークが詰所の扉から顔を出すと、外は何人もの賊が地面に倒れ伏して既に死屍累々といった様相になっていた。
斬り飛ばされた腕が転がっていたり、大量の血を流している男がいたりと以前の私なら震えあがるような光景だけど、今はそこまで動揺することはない。
ほとんどが大怪我で動けなくなっていたり気絶しているだけで、死んでいる人はいなさそうだ。
先頭で賊を迎え撃っているのはマックスで、師匠はマックスが捌ききれなかったところを少し手助けするような感じの動きをしている。
そんな二人に詰所にいた騎士は唖然としながら、戦闘不能になっている男たちに縄をかけていっている。
当然ながら私たちがいる詰所に到達できる賊はいない。
「やっぱりマックスは強いね。アレグリンドに残ってくれてよかったなぁ」
ジークは側近の働きを満足気に眺めている。
「ジークはいつからマックスを引き抜こうと思ってたの?」
「最初からだよ。父上に、学園で最低一人は有能な留学生を口説き落とせって言われてたんだ。マックスは入学前からその候補の一人だった。話してみるといいヤツだし、実力も申し分ないし、キルシュに愛着はないようだし、卒業までになんとか説得しようと思ってた」
「そ、そうだったんだ……」
私は、ジークがマックスにアレグリンドに留まるよう交渉してくれないかなと密かに願っていたんだけど、キルシュに婚約者がいると思っていたから諦めていた。
「レオとのことは流石に予想外だったけど、いい結果に収まったよね。父上も喜んでいたよ」
私たちが全く関係ない雑談をしている前で、マックスはまた一人賊の脚を斬り裂いて詰所にいた騎士の方向に蹴り飛ばした。
捕縛が楽になるように、と気配りをするだけの余裕があるということだ。
圧倒的な実力差に、まだ五人くらいは残っている賊が逃げ腰になった。
それなりに腕がたつ人員を揃えて来ているのだろうけど、マックスと師匠に敵うわけがない。
「怖気づくな!借金をチャラにしたくないのか!数で押せ!全員でかかれ!」
あ、あれがリーダー格なんだろうな。なんてわかりやすい。
というか、あの人、エルクさんが連れて行ってくれた食堂で酔っ払いを追い払ってくれていた人だ。
あれは親切心じゃなくて、目をつけた獲物に手を出されないように守ってただけだったのか。
「行け!利息十倍にされたいのか!」
かなり無茶な発破をかけると、五人が一斉にマックスに殺到した。
マックスは一歩下がって、賊を間近に引きつけてから風魔法を展開した。
王族の護衛であるマックスは街中でも火魔法を使う許可を得ているらしいけど、最近集中的に風魔法を訓練しているのだそうだ。
マックスの前方にぶわっと突風が発生し、向かってきた賊は全員風の刃で斬り刻まれながら吹き飛ばされ石畳に叩きつけられ、それと同時にマックスは逃げ出したリーダー格と一気に距離をつめて剣の柄で頭部を殴って昏倒させた。
それからしばらく待っても新たに賊が現れることはなく、襲撃はそこで終了となった。
マックスとサリオ師が戦闘不能にした賊が全員捕縛され、少しだけ怪我をしてしまった騎士に私が包帯を巻いてあげている時に無傷のフェリクスたちもやってきた。
やはりこちらに主戦力が向かっていたらしく、フェリクスたちは現れた十人くらいの賊を簡単に打ち負かしてエリオットの土魔法でガチガチに枷をつけて放置してきたのだそうだ。
そうこうしているうちに出払っていた騎士たちが戻ってきて、突然多数捕縛された賊たちに大慌てで対応を始めた。
「僕たちはユベール伯爵の客人です。ユベール伯爵邸に滞在していますから、なにかありましたらご連絡ください」
「は、はい!ご協力感謝します!」
ジークから話を聞いていた騎士は顔を赤くしながら敬礼した。
なんでもない騎士服を着ても麗しさが駄々洩れのジークに、これだけの数の賊に狙われるのも当然と納得してくれたことだろう。
ユベール伯爵邸に戻ると、ユベール伯爵に頼むから無茶なことはしないでくれと涙目で懇願され、調査隊隊長からはいくら剣聖がいるからってこういうことは二度としないように、とサリオ師を含め全員が説教された。
翌日は当然の措置としてユベール伯爵邸から出ることを禁じられ、届いたお土産の整理をして伯爵夫人に人魚姫の贈り物を使ったアクセサリーを見せてもらった。
クラークさんが早速届けてくれたデザイン案を見ながら、伯爵夫人とジークが楽しそうにあれこれデザインを話し合う横で、私はデザインは全部丸投げすることにした。
私が口を出すより、その方がいいものができるに決まっているのだから。
ちなみに、クラークさんには怖い思いをさせてしまったお詫びとしてユベール伯爵邸の料理人に頼んで作ってもらったお菓子を詰めたバスケットを持って帰ってもらった。
そしてその翌日、私たちは王都に向けエルシーランを発った。
復路はエリオットがニールさんの隣の御者席に座り、ジークは騎乗して行くとのことだった。
穏やかなニールさんと賢いエリオットは話が合うようで、とても楽しそうだった。
ニールさんと話すのは面白いし、私も御者やりたかったんだけどな……と少しだけ思ったのは内緒だ。
今年のエストラへの調査遠征はジークたちも多くのことを学んだようで有意義な時を過ごせたようだった。
ジークたちが学園を卒業してしまってからあまり近くにいられなかったから、久しぶりに一緒に行動できて私も楽しかった。
来年もまた同じようにできたらいいな……とその前に、マックスと卒業後のことを話し合わないといけないな。




