表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/107

⑥ 主の出現

「くそっ!いつまで続くんだ!」


 魔獣が倉庫から溢れ出すようになってから、もうかなりの時間が経っている。

 私の懸念通り、周囲の生徒たちから疲労と焦りが見え始めていた。

 ファーリーン湖でも魔獣の浜でも、魔獣が溢れだすのがいつ終わるかというのは毎年まちまちだと聞いている。

 両方の遠征に行ったことがある私でも、これがいつ終わるかなんてことはわからない。


「もう少し持ちこたえなさい!騎士団には連絡をしてあります!もうすぐ救援が来るはずです!」


 いいタイミングで学園長の声が響き、なんとか士気が持ち直した。


「聞いたな!もう少しの辛抱だ!アレグリンド王立学園の意地を見せてみろ!」

 

 私もそれに便乗するように声を上げ、同時に前方に大き目な火魔法を放って数十匹単位の魔獣を焼き払った。

 火魔法は苦手なのだけど、これだけ数が多いと属性攻撃をするのが一番手っ取り早いのだからしかたがない。


 後方から飛んでくる攻撃魔法は疎らになり、お掃除魔法も今や二つしか動いていない。

 前線に立つ騎士科の生徒も次第に数が少なくなってきた。

 皆、かなり消耗してきている。


 溢れだす魔獣の波が止んだのは、その時だった。


「魔獣が出てこない……?終わった、のか?」


 誰かが呟いたのが聞こえた。


 違う。この感じは……主が出てくる前兆だ。


「負傷者と火魔法が使えない者は下れ!魔力に余裕がない者もだ!」


「え?でも、レオノーラ様」


 隣にいた騎士科の同級生が、不思議そうに私を見た。

 確かに、なにも知らなければこれで終わりのように思えるのだけど。

 

「まだ終わりじゃない!気を抜くな!一番強いのが出てくるぞ!」


 私が声を張り上げると、ほとんどの生徒が後方に下ってしまった。

 残っているのは私を含めて五人だけだ。


「まだ攻撃魔法は使えるな?倉庫から出てきたら、一斉に火球を叩きつけて弱らせ、それから一気に畳み掛けよう。どんな魔獣がでてくるのかわからないけど、水属性なのは間違いない。今までのとは比較にならないくらい大きいのがでてくるはずだ。おそらく、火魔法を纏わせていない剣は弾かれてしまうだろう」


 生徒たちの顔が強張った。明らかに腰が引けている。


「レオノーラ様……なぜ、そんなことがわかるのですか」


 生徒の一人が不安そうに尋ねてきた。最もな疑問だ。


「以前に、同じような状況になったことがある。水属性の魔獣がたくさん湧いて出て、最後に強くて大きいのが一頭でてきた。今回も、あの時と同じ感じがする」


 ニールさんが言っていた。

 ファーリーン湖にも魔獣の浜にも、きっと古代の魔法具が沈んでいるのだと。

 だれかがあの倉庫の中にそれを模倣して作られた魔法具を運び込み、騎士科の教師たちがいない今日それを作動させたのだろう。


「私たちの役目は、騎士団が来るまでここで時間稼ぎをすることだ。無理をする必要はない。だから、もう少し、私と一緒に頑張ってほしい」


 ドン、という衝撃が倉庫の中から伝わってきた。

 主が出てくるとこの衝撃が魔法具から出てきて、それがファーリーン湖や魔獣の浜では波となっていたのだろう。


「来るぞ!構えろ!」


 私たち全員で魔法をぶつけても、それだけで主は斃せないだろう。

 それなら、その後に備えなくてはいけない。


 私は火球に籠める魔力を控え目にして、その分確実に魔獣の顔面に叩きつけられるように狙いを定めることにした。


 倉庫からのっそりと姿を表したのは、青い巨大な虎みたいな魔獣だった。

 額には白く鋭いユニコーンみたいな角が生えていて、所々に毛皮ではなく鱗が生えている。


 よかった。首は一つだけだ。そこまで不自然な感じもしない。

 人工的に作られたという妙な魔獣ではなさそうだ。


 でも、この後にまた妙な魔獣が出てくる可能性もあるわけで。


 そうなったら、確実に私たちでは対応しきれない。


 とはいっても、まずは目の前の魔獣をなんとかするのが先決だ。


「撃て!」


 私の号令とともに、魔獣に向かって火魔法が放たれた。

 速度や威力もバラバラながら、この場に残っているだけあって狙いは確実なようで全てが魔獣の体に直撃した。

 私の火球もなんとか顔面に当たったけど、目を潰すほどの効果はなかったようだ。

 魔獣は悲鳴のような咆哮をあげて私たちを睨みつけた。


 口から覗く鋭い牙に、太い脚にはこれまた鋭い爪。

 さっきまでの魔獣とは段違いの強烈な殺気と存在感。


「ひっ……」


 私の隣にいた、現在学園で騎士科トップの成績を誇る生徒が情けない声をあげて後退りした。

 それは他の生徒にも伝染し、全員が恐怖にのみこまれてしまったのがわかった。


 マズい。非常にマズい。


「全員下れ!あれは私がなんとかする!」


「……レオノーラ様!」


「いいから下れ!足手まといだ!後は学園長の指示に従え!行けぇ!」


 この時点で、私の魔力も体力もかなり削られている。

 だからといって、私まで逃げ出すわけにはいかない。

 冷や汗が背中を濡らし、脚が震えそうになるのを必死で抑えた。


 私は服の上から首に下げている赤い指輪に触れて、それから改めて剣を構えて魔獣と対峙した。


 ありったけの殺気を魔獣に叩きつけながら、私の脳裏によぎったのは。


 私を庇い守ってくれる頼もしい背中。

 無表情なようで時に雄弁な紫紺の瞳。

 不器用で無骨な態度な中に秘められた優しさ。

 遠慮がちに触れてくる温かな手の感触と、そこから伝わる確かな愛情。


 マックス!力を貸して!


 そう願った次の瞬間、事態は一変した。


 横から特大の火球がすごい勢いで飛んできて、私に飛びかかろうとしていた魔獣の体を半分くらい一瞬で消し炭にしてしまったのだ。


 驚いて声もでない私の前で、これまたすごい勢いで走ってきた青年がダメ押しとばかりに一撃で魔獣の首を斬り落とした。


 学園の制服ではなく、騎士の制服を着た赤い髪の青年。

 私を振り返るその顔の左側は、見慣れた仮面に覆われていて。


「レオ!無事か!?」


 私は答えを返す代わりに、真っすぐにその胸に飛び込んだ。

 両腕を逞しい首に回してぎゅっとしがみつくと、マックスも剣を握っていない左手で私をしっかりと抱きしめてくれた。


 遠くから歓声と黄色い悲鳴が響いてきたけど、もうなにも気にならなかった。


「間に合った……無事でよかった……」


 首筋に顔を埋める私の耳元で、マックスが安堵の溜息と共に囁くのを聞きながら私は泣きそうになるのを堪えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ