㉒ 閑話 後半マックス視点
【セルマー輸入雑貨店で若者を見守る大人たちの会話】
アリシア「カイル様……あのお二人は……」
カイル「あれで付きあってないんだとよ」
クラーク「ええ!?嘘でしょう?だって、魔獣の浜でもあんなに!」
セルマー「ふふふ、お二人とも可愛らしいですねぇ」
カ「(あんたが言うと、なんか別の意味に聞こえるんだよ)マックスは頑張ってるんだけどな。レオがどうも、一歩引いてるというか」
ア「それは……だって、御身分が」
カ「ああ、身分差は問題ない。詳しくは言えないが、それを覆すことができるネタをマックスが持ってる」
ア「それなら!」
カ「ただし、それはレオも同じことを望むことが条件だ。マックスが一方的にレオの降嫁を望んでも無理なんだよ」
ク「姫様は、そのネタのことをご存じなので?」
カ「知ってるよ。当然だ。それなのに、なんだよ」
ア「レオノーラ様は……他に好きな方でも」
カ「ジークあたりのことを言ってるのか?それはないな。あの三人のことは、レオは兄としか思ってない。他にレオが親しくしてる男はいないはずだ」
ア「カイル様……随分とお詳しいのですね?(王太子殿下を愛称で呼ぶほど親しいなんて)」
カ「……ちょっと、いろいろあってな(ジークと妹が婚約してるのはまだ秘密なんだよな)」
セ「それではマックス様の背中を押すために、こちらなどいかがでしょう」
カ「(あからさまに怪しげな小瓶だな)なにかの薬か?」
セ「これは、子猫になる薬でございます」
カ「子猫に変身するっていうのか?」
セ「いえいえ、そこまで大袈裟なものではございません。これを数滴、飲み物に混ぜて女性に飲ませると、にゃんにゃんと子猫のように甘えてくれるという」
カ「ばっ!なんだよそれ!完全にアウトな薬じゃないか!そんなのレオに使えるわけないだろ!っていうか、違法だろその薬!」
セ「では、こちらはいかがでしょう。妖精の鱗粉と呼ばれる粉薬でして、女性に飲ませるとたちまち」
カ「だぁもう!レオになにか飲ませるのはダメだ!却下!」
セ「ふふふ、冗談でございますよ。ふふふふ」
カ「(絶対本気だっただろ!)」
ク「あ、見てください!姫様が髪飾りを受け取りましたよ!」
ア「マックス様……よかったですね」
セ「ふふふ、なんとも微笑ましい。健気な若者には私からちょっとしたプレゼントをお贈りするとしましょう」
カ「なにを贈る気なんだよ?また変なものじゃないだろうな?」
セ「まさか。東方では若者の間で人気の商品なのです。きっと気に入っていただけるかと」
カ「本当に変なものじゃないんだろうな?」
セ「心配ご無用です。ふふふふ」
カ「(いやいや、心配しかないんだけど)」
「マックス!こんなのがあったんだけど」
持ち帰ったお土産の荷ほどきをするレオを手伝っていると、『マックス様へ』と書いてある包みを手渡された。
「俺に?なんだろうな」
「輸入雑貨店からの荷物に入ってたから、セルマーさんからなんだと思うよ」
レオが侍女たちと荷ほどきを進める横で包みを開けてみた。
中に入っていたのは、カードと明らかに異国のものだとわかる装丁の本が一冊。
カードには、『マックス様へ 御武運をお祈りしております セルマー』と短く記してあった。
御武運?なんのことだ?と首を捻りながら本を開いてみた俺は、ぎょっと目を剥いた。
なんだかよくわからない触手だらけの魔獣みたいなのが女性に絡みついている絵。
その次のページには、女性の体に必要以上に複雑な縄がかけられ天井から吊るされている絵。
その次のページには、なんでわざわざこんな体勢になろうと思ったのか理解に苦しむような男女の絵。
その次のページには、女性が……
バン!と音をたてて本を閉じた。
なんだこれ!?なんで俺宛にこんな本を!?これで俺にどうしろっていうんだ!
「あれ?やっぱり本が入ってたんだね。本は売り切れだって言ってたのにね。どんな本なの?見せてよ」
「ダメだ!」
本に手を伸ばそうとしたレオに、俺は慌てて本を頭上に上げてレオの手に届かないようにした。
「なんで?いいじゃない、見せてよ」
「ダメだ!おまえには……おまえには、まだ早い!」
「なにそれ?私たち、一歳しか違わないじゃない。いいから見せてよぉ!」
ぴょんぴょんと跳ねて本を奪おうとするレオから俺は脱兎のごとく逃げ出した。
「どこに行くの?荷ほどき手伝ってくれるんじゃないの?ねぇマックスってばー!」
呼び止めるレオを無視して走り去った。
混乱した頭のまま走り、ちょうど角を曲がったところでジークたち三人とぶつかりそうになってしまった。
「マックス?どうしたんだよ、そんなに慌てて」
「あれ?本は手に入らなかったんじゃないの?」
止める間もなく、ジークがひょいと本を手に取り適当なページを開き、エリオットとフェリクスも左右からそれを覗きこんで……
「なっ!」
「ええぇ!?」
「はぁ?!」
三人三様の叫び声を上げた。
さらに別のページを開き、
「げぇっ!」
「ひぃぃっ!」
「うわぁぁ~……」
どんな絵を見たのか、あまり想像したくないと俺は思った。
「この本……どうしたの?」
「よくわからないんだが……輸入雑貨店の店主から俺宛ということで、土産の中に紛れこませてあったんだ」
「マックス宛に?なんでこんな本を?」
「わからない。心当たりがまったくない。あの店主、一体なにがしたいんだ……」
「マックス……まさかレオにこのような」
「してない!するつもりもない!なに言ってるんだよ!」
顔を赤くしながら仮面がとれそうな勢いで首を振ってマックスは否定した。
「この本、借りてもいいかな?」
「構わないが……そんなのどうするんだ」
「まぁ、ちょっとね。エリオット」
「わかってる。じゃあ、借りていくよ。後でちゃんと返すからね」
エリオットは本を片手に足早に去っていった。
一抹の不安を覚えながらその背中を見送った俺に、ジークはきれいな笑顔を向けた。
「さあ、僕たちもレオの手伝いに行こうか」
後にこの本が思わぬ効果を生むことになることを、俺はまだ知らない。




