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⑬ 壁を一つ乗り越えた

 そして、翌日もまた同じ場所で同じ蛙の魔獣を狩ることになった。


 早速見つけた魔獣の群れに向かって魔法を起動させる私の後ろには、シストレイン子爵家全員と数人の騎士、それからマックスがいる。

 たくさんの視線を背中に受け、居心地の悪さを感じながら放った魔法は昨日と同じようにクルクルスイスイと魔獣を集め、火魔法で仕上げをすると背後から『おおぉぉ~~』と感嘆の声が上がった。


 こんなことになったのは、前日の晩餐の席でキアーラがお掃除魔法で私が魔獣を華麗に狩ったと大袈裟に褒めちぎりまくったからだ。

 興味を持った一同が是非見てみたいと言い出し、こんな大所帯で小さな魔獣狩りをすることになったのだ。


「ほら!言った通りだったでしょう?レオ様はすごいのですよ!」


「なんとも器用なものだな」


「これはいいな。俺も使えるようになりたい。後で教えてくれる?」


「もっと強い魔獣にも使えるだろうか」


「魔力コントロールが難しそうだな。慣れればいけるかな?」


「お掃除魔法で魔獣討伐だなんて、よく思いついたわねぇ。私もやってみたいわぁ」


 ということで、その日は全員にお掃除魔法を教授することになった。


 家政科の講義のときにすでに習得しているキアーラ以外の人たちは苦戦に苦戦を重ね、私がアルツェークに滞在している間に絶対に成功させてみせる!と息まいていた。

 風魔法があまり得意ではないマックスも密かに闘志に燃える瞳をしていたことを私は見逃さなかった。


 こうして始まった魔獣討伐は、また私がなにか面白いことをするかもしれないと、キアーラに加えマックスとカイル兄様と数人の騎士までついてくることになった。


 ルルグの次に小さく弱いのは、兎に似たザブルという魔獣だそうだ。

 これは群れをつくったりはしないので、見つけ次第駆除することになる。


 早速、騎士の一人が目当ての魔獣を発見したと教えてくれた。


 少し離れたところで灰色っぽいものが動いているのが見えた。

 顔と長い耳は兎とそっくりなのに、なぜか蛇のような尾が生えている。

 地面に落ちている木の実を食べているようだ。

 発見した騎士がこっそり後ろに回って私がいる方に追い出してくれることになり、私は剣を抜いて低木の茂みに隠れ身構えた。

 騎士の大きな声が響き、それに驚いた魔獣がこちらに駆けてきた。

 正面から見た魔獣は、やっぱり兎によく似て可愛い顔をしている。

 前世の学校で飼われていた兎を思い出し……


 そして、私はまた動けなかった。


 魔獣は私の横をすり抜けて逃げようとし、私の後ろにいた別の騎士にあっさりと切り捨てられた。


 また、だめだった……


 と、自分に落胆する暇もなく。


「レオ!おまえはなにをやっているんだ!」


 カイル兄様に大声で叱られた。

 魔獣を殺すのを躊躇うなんて剣を持つ資格がない、自分だけでなく周囲も危険に晒すことになる、と本当に物凄い剣幕だった。

 私の身分を知っているはずなのにこんなことができるのは、やはりキアーラと同じ血が流れているのだなと妙に冷静に思った。


 もうやめてしまえ!と言われたけど、ここで諦めるわけにはいかない。

 なんとかもう一度チャンスを!と頼み込んで、これで最後だと泣きの一回が許されこととなった。


 次に見つけたのは、今度は茶色っぽいザブルだった。

 さっき同じように私がいる方に追い込んでもらった。


 魔獣がこちらに駆けてくる。

 胸が早鐘を打ち、緊張で冷や汗がじっとりと全身に滲んだ。


 魔獣はもう目前まで迫っている。


 私は意を決して歯を食いしばり、今だ!というタイミングで剣を振りぬいた。

 訓練では幾度となく繰り返した動きだった。


 そして訓練とは違い、確かな手ごたえが伝わってきた。

 これが肉と骨を同時に断った感触なのだとわかった。

 一瞬の出来事だったはずなのに、とても長い時間に感じられた。

 足元に横たわったザブルの茶色い毛に覆われた死体を見下ろし、私は無意識に肺にため込んでいた息を吐き出した。


 その後、教えてもらいながらなんとか自分の手で解体まで済ませると、カイル兄様はよく頑張ったなと頭を撫でてくれた。

 そのザブルの肉は夕食の材料になり、みんなの胃袋に収まった。


 これがきっかけとなり、私は自分の中で壁を一つ乗り越えたことを感じた。


 ザブルは可愛い顔をしていたけど、鋭い牙を持っていた。

 大きく成長すると、あの牙で人の子供くらい簡単に喰い殺すのだそうだ。


 どんな外見をしていても、魔獣は魔獣。

 人とは相容れない存在なのだ。

 逃してしまうと将来その魔獣に誰かが襲われるかもしれない。

 そんなことはあってはらない。


 それからも、いろんな種類の魔獣を駆除し続けた。

 私は魔獣に対して剣を振るうのを躊躇わなくなった。


 ただ、できるだけ魔法ではなくナイフか剣でとどめを刺すように心掛けた。

 その方がより『命を奪っている』という感じがするからだ。

 人に害をなす魔獣であっても、生きていることに変わりはない。

 狩った魔獣はできるだけ丁寧に解体し、素材や魔石を回収した。

 他の動植物と同じように、与えてくれることに感謝の気持ちを忘れないようにしようと思った。

 前世で食事の前に『いただきます』と言っていたのと同じだ。


 それが私なりのけじめだった。

 

 人に対しても同じように剣を振るうことができるかどうかはわからないけど、少なくともローレンスに襲撃されたときみたいに、なにもできず動けないようなことにはならないだろう。

 自分の身を守る、もしくは逃げるくらいのことはできるはずだ。


 私は自分の成長を実感していた。


 全力で叱りとばしてくれたカイル兄様には感謝しかない。



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