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㉖ 久しぶりのお茶会

 侍女に改めてお茶を淹れてもらい、今度は全員で着席してやっとゆっくりと寛げる気分になった。


「こうして集まるのも随分と久しぶりだね」


「そうだね。最後は……二十日くらい前だったね」


 ジークたちが王都を発つ日の朝に別れを交わしたのが最後だった。


 あれから、気が遠くなるくらいいろんなことがあったからか、もう何年も前のことくらいに思える。


「レオもマックスも、本当によくやってくれた。おかげで、たくさんの人が死なずにすんだ。最良の結果だったよ」


「私たちは運がいいからね!」


 きっとお揃いで持っている懐中時計のおかげだというのは大きいのだと思う。

 幸運の加護がいい仕事をしてくれたのは間違いない。


「そっちはどんな感じになってるの?」


「マックスの父君が頑張ってくれて、引継ぎも調査も順調だよ。レオが散々脅したのが効いてるみたいで、キルシュの人たちも協力的だ」


「脅したなんて……いや、脅したけどさ。まぁあれが役に立ったんなら、よかったのかな」


 脅したというか、威圧したというか。そういうことをした自覚はある。


「それはいいんだけど……思っていた以上に酷い状態だよ。牢獄と後宮の報告書は、読んでいて吐き気がするくらいだ」


 今も調査は続けられていて、その報告書が毎日ジークのところまで上がってくるらしい。

 私はまだ見せてもらっていないけど、救護施設で話を聞いているので内容は想像できる。


「人が死にすぎている。優秀な軍人も文官も、魔力量の豊富な貴族も、ごっそりといなくなってしまったようだ。例外はマックスのご家族くらいなものだよ。兄上が頭を抱えている」


 エリオットが疲れた顔で溜息をつきながら言った。

 この兄上というのは、エリオットの兄でアレグリンドの宰相の筆頭補佐官のことだ。

 今回は文官のまとめ役としてついてきてくれている。

 エリオットの家族は皆優秀な文官なのだ。


「まだ決定ではないけど……キルシュはアレグリンドに併合されることになりそうだ。キルシュはマルバの恨みもかってるからね。キルシュをこのまま存続させたら、マルバが攻め込んでくるかもしれない。そうなったらまた酷いことになってしまう」


 マルバは大きな被害を被っている。

 きっと腸が煮えくりかえっている人がたくさんいるだろう。

 

「ところで、レオは救護施設の手伝いをしているらしいね?」


「うん。洗浄魔法は得意だし、私にできるのはそれくらいしか思いつかなかったからね。役に立ってると思うよ?」


「間違いなく役に立ってる。役に立ちすぎてるんじゃないかってくらいだ。レオと話したおかげで立ち直れそうな人も多いって聞いてるよ」


「そうなのかな?私はただ話を聞いてるだけだよ?」


 私が首を傾げると、皆がなんだか複雑な顔になった。


「それ、本気で言ってるの?」


「きっと本気なのでしょう。レオ様ですから」


「レオらしいといえばそうだけど……」


「それにしても、よくマックスが許したな?」


 最後のフェリクスの言葉に、マックスは眉を寄せた。


「あの状況では許すしかなかった。死にそうな顔した男が、レオが手を握ってやると少しマシになるんだ。そんなの、止められないだろ……その代わり、護衛はしっかりとつけておいた」


 マックスに加え、静謐の牙から必ず二人が護衛に来てくれていた。

 ちなみに、静謐の牙の皆とは昨日でお別れだった。

 アレグリンドの王都に来たら、タウンハウスに寄ってくれるようにお願いしておいたのでそのうちまた会えるだろう。


「毎回すごく感謝されるんだけど……いけないことだった?」


「そうじゃない。とてもいいことだよ。助かる人が増えるのはいいんだけどね。レオに仕えたいとか、レオに忠誠を誓うとか、そんなことを言う人が増えてしまった。挙句の果てには、レオとアーネスト皇子を結婚させたらどうか、なんて声まで上がる始末でね」


 ジークがそう言うと、途端にマックスが剣呑な顔になったので私は慌てて袖を引いた。


「そんな声があったってだけだ。僕たちは誰も同意なんかしていない。というかね、僕がなにか言う前に、マックスの父上が即却下してたよ。『火竜の花嫁を奪うのがどういう意味かわかってるのか』ってね。それ以降は同じことを言う人はだれもいなくなったよ」


 火竜の花嫁?この場合は私だよね?


「数代前の火竜の紋をもった俺の先祖が、恋人を奪われそうになって大暴れしたんだそうだ。それこそ、帝都が壊滅しかけるくらいだったとかなんとか……どこまで誇張かはわからないが、そんな話があるんだ」


 なんとなくだけど、あんまり誇張じゃないような気がする。


「レオとマックスが婚約しててよかったよ。そうでなかったら、もっと面倒なことになっていた……今回の件で、アレグリンド側の一番の功労者はきみたち二人だ。きみたちを引き離すなんてありえないから、安心していいよ」


「そこは、心配してないよ。そうだよね?」


 隣のマックスを見上げて、半ば無理やり頷かせた。


 私はアーネスト皇子より五歳も年上だけど、政略結婚ならこれくらいは普通だ。

 アーネスト皇子が皇帝になったとして、私が皇妃になったらアレグリンドからの支援を受け続ける理由になるから、そういうことを言う人もいるのだろう。

 それとも、もう一度私を皇帝にして、アーネスト皇子を夫として据えるということだろうか。


 どっちも嫌なんですけど!


「レオたちは、明日からも救護施設の手伝いをしてほしい。アレグリンドへの好感度が高い方が、併合する時も反発が少なくなるだろうからね。お願いできるかな?」


「わかった。そうするよ」


 そこには異論はない。


 私たちが功労者だというのは間違いないけど、危機が去ったからといって遊んでいるわけにもいかない。

 役に立てることがあるなら、その方がいいに決まっている。


 明日からはまた救護施設に通うことにしよう。

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