11-4 迷いの迷宮 その4
結局、僕はどうすることも出来ないまま、その日は帰路についた。
一番真鍋先輩のことを分かっていないのは……悔しいけど僕だった。
真鍋先輩の様子が変わったのは、本当につい最近……しかも突然の話だ。
みんなもその理由については分からない……いや、女性陣は分かっているのか。
とにかく、真鍋先輩の様子の変化が何から来ているのか……それすらも分からない。
そこには僕が絡んできているのだろうということは想像がつく。
だが、そこまでだった。
それから先は……何も思いつかなかった。
「……ハァ」
ここまで考えて、僕は溜め息を漏らしてしまう。
……あれだけ考えているというのに、真鍋先輩の心境の変化の理由すら掴めていない。
自分からはどう接すればいいのか……それすらも分からなくなってきていた。
僕は今まで、真鍋先輩とどう接してきたのだろう。
僕は……何をやっているのだろう。
「あなたらしくもないわね……健太」
「……美奈さん」
帰り道の途中で、僕は美奈さんに出会った。
それは本当に偶然の話……誰かが意図して僕に会わせたわけではない……と思う。
「どうしたのかしら?そんなに悩みを抱えたような表情をして」
「……顔に出てる?」
「ええ、出ているわね。吉行でも分かる程に、ね」
言われて、自分はそこまで悩んでいたことに気付く。
……他の人にも分かってしまう程、僕は悩んでいたと言うのか。
「何を悩んでいるのかしら?言うだけでも楽になると思うわよ?……ひょっとしたら何かの役に立てるかもしれないし」
「……え?」
いつも美奈さんは、こんなことを言ってきただろうか。
……いやいや、今はそんなことは関係ない。
どうしよう……美奈には話すべきなのだろうか。
それとも……。
「……分かった。正直に話すよ」
やがて僕は、すべてを美奈さんに話すことにした。
僕が抱えている悩みを……全部打ち明けた。
その後で、美奈さんはこう言ったのだ。
「……私に出来ることは、アドバイスだけのようね」
「え?」
「……私から健太に言えるのは、早くその先輩の想いに気付いてあげなさいということだけよ……かつて様々な世界で健太がそうしてきたように、ね」
「……え?」
最後の方の言葉に、僕は驚いた。
美奈さんは……この世界の仕組みを知っている?
「み、美奈さん……もしかして……」
「それ以上は言わなくていいわ。今はそのことは関係ないから」
言おうとして、美奈さんに止められる……確かに、今はそのことに構っている場合ではないからだ。
「……健太、私から言えるのは、その先輩の気持ちを受け取りなさいということだけよ……どんな返事を返すかは健太次第だけど、その先輩の気持ちだけは、聞いてあげなさい。それが……解決に繋がるのだから」
「……分かった。ありがとう、美奈さん」
僕は意味もなく走り出す。
今から真鍋先輩に会いに行くわけではないけど……何故だか僕は、何時もの帰り道を全速力で駆けながら、帰って行ったのであった。