11-3 迷いの迷宮 その3
そして、そのまま帰りの時間がやってきた。
生徒会室で仕事している間も……結局僕は、真鍋先輩と会話をすることがなかった。
何だか寂しいけど……真鍋先輩が僕に話しかけることがなかったので、僕も真鍋先輩に話しかけなかったのだ。
いや、話しかけることが出来なかった。
「今日の真鍋は……一段と話しかけづらかったな」
ここ最近の真鍋先輩のことを考えながら、吉田先輩がそんなことを言った。
……前までは普通に話しかけることが出来たのに。
一体、何が原因でこんな状況になってしまったのだろうか。
「最近教室でも上の空みたいだしね~。友達から聞いた話なんだけど~」
「そうなんですか?」
三倉先輩の言葉に、音羽さんが答える。
……教室でも上の空、か。
本当に、何か悩み事でもあるのではないだろうか?
けど、僕がそのことを聞き出そうとしたら……怒られた。
まるでそのことには触れてほしくないような、そんな感じで。
「今日も早退するしな……本当にどうしたんだろうな、瑞穂」
会長もまた、心配するようにそう呟く。
……早退した原因は、みんなが来る前の僕との会話に間違いないのだろうけど。
それとも、他に理由があるとでも言うのだろうか……。
「さて、こうなった以上、真鍋のことを放っておくわけにもいかない。俺達は生徒会の一員として、真鍋の悩みを解決してやる必要がある」
「なんとなく理由は察知できるような気もしなくもないですけどね~」
三倉先輩が、いつもの間延びしたような返事を返す。
……そう言えば、三倉先輩は真鍋先輩の悩みに薄々気づいている様子だったけど。
「会長は分からないのですか?」
「……恥ずかしながら、女心という奴は俺には分からないからな。そこらへんは俺なんかよりも三倉や水島の方が分かるんだろうな」
会長は、お手上げといった感じでそう言葉を返す。
一方で、話題に挙げられた三倉先輩と水島先輩は、
「そうですね~。分からなくもないですよ~」
「……合ってるかどうかは分かりませんけど、なんとなくでしたら……」
二人の答え方はまったく違うものだったけど、どちらも肯定の言葉ととって間違いないのだろう。
「それじゃあ……真鍋先輩が悩んでいることって分かりますか?」
僕は二人にそう尋ねる。
すると先に答えたのは、
「う~んどうしようかな~……瑞穂ちゃんよりも先に言っちゃっていいのかな~?」
「……何か重大なことなのですか?」
「うん~。結構、いや、かなり重要なことだよ~」
……なんだろう。
僕には三倉先輩の言葉の意味がさっぱり分からない。
「三倉先輩の言うとおりだよ、健太君……これは真鍋先輩にとっても、健太君にとっても……重大な話なんだよ」
「僕にとっても?」
なんだろう……その言葉が妙に引っかかるのは気のせいだろうか。
僕にとっても重大なことって、一体どういうことなのだろうか……?
「とにかく、明日また話しを聞いてみるしかなさそうだな……けど、本人が聞いたところで意味はない。そこで、明日は三倉、お前が話しを聞いておいてくれ」
「わかりました~」
三倉先輩に会長は指示を出す。
僕は……結局真鍋先輩のことを思うのなら、何も動かない方がいいということになったのだった。