10-8 神様がくれたチャンス その8
「あ……あ……」
パクパクと、かなえさんは口を動かしていた。
僕と須永さんの……その、キスしている現場を目撃して、最早何も言えないような状態となっていた。
キスをした本人である僕も……しばらくの間は恥ずかしさのあまりに何も言えなくなってしまっていた。
……何だろう、この気持ち。
言葉では言い表せないような、この感情。
「えへへ……キス、しちゃった」
「う……うん」
須永さんは、若干顔が赤くなっているものの、笑顔で、そして嬉しそうに言った。
「ほ……本当にするなんて……健太さん、私達のこと……嫌いだったのですか?」
「何故そうなるの!?」
突然杏子ちゃんが泣き出す。
……つられてなのかは分からないけど、かなえさんまで泣き出した。
……何で二人が泣くの?
「お前……よくも杏子を泣かせてくれたな?」
「いや……ちょっと待ってよ、吉行。何で吉行がそんなに怒りのオーラを出してるの!?」
「お前が杏子を泣かせたからだぁああああああああ!!」
吉行は、滑りながら全力疾走でこっちに迫ってくる。
……これなら、避けれる。
そう感じた僕は、スケート靴を履いている関係もあって、右側に少し滑ることで、吉行からの攻撃を避ける。
「あ~……」
(ドンッ)
やがてそんな衝突音が鳴り響き、吉行は壁に激突していた。
「……哀れね」
「……だな。さすがに俺も、あそこまではアホではないな」
美奈さんが哀れみの表情で吉行を見ていて、和秀は、自分よりも下の人間を発見したかのような表情をしていた。
「テメェら……言いたい放題言いやがって……歯を食いしばれぇえええええ?!」
(ドンッ!)
またもや吉行は、壁に激突していた。
なんというか……可哀想に思えてきた。
「あの……健太君?」
「な、何?……須永さん」
あの後だから、何となく顔を合わせずらい。
目と目が合っただけで、顔が赤くなってしまいそうだ。
「あ……ありがとう、健太君。私のファーストキスを、もらってくれて」
「……え?」
本人から言われた、衝撃的な一言。
予想はしていたとはいえ、本当にファーストキスだったとは……。
「良かった……これで、私の願いは叶ったんだもんね」
「へ?」
「な、なんでもないの、なんでも」
慌てた様子で、須永さんは言う。
……よく分からないけど、その表情は曇りのない笑顔だった。
「私のファーストキスを奪った責任……健太君にとって貰うからね?」
「せ、責任って……どうすればいいって言うのさ?」
何となくこの後に続くだろう言葉は予想出来た。
だけど、それを本人から直接聞かない限りには、僕の予想が正しいのかどうかということには繋がらない。
「私と……私と付き合って!健太君!」
……予想通りの言葉だった。
だけど、少し嬉しかった。
僕の返事は、ただ一つ。
「……僕で良かったら、よろしくお願いします」
「……やった~♪」
「うわっと!」
僕は突然、須永さんに抱き付かれる。
そして、須永さんは僕の耳元で、こう言ったのだ。
「これからもよろしくね?……それと、夢を見させてくれて、ありがとう」
そして僕の意識は、遠退いて行った。




