1-8 ~if~あの時告白が出来ていたとしたら その8
お昼ご飯を食べてからも、僕達はデパートの色んな所を回った。
柄にもなくゲームセンターに行ってプリクラを撮ったり、途中にあったたい焼き屋でたい焼きを買ったり、本屋で色んな本を見てみたり。
結構お店を渡り渡りし、デパート内をすべて回ったのではないかと思う程であった。
そして、時間は夕方になり、僕達は夕日を浴びながら、とある公園に来ていた。
「あ~楽しかった!」
「そうだね。僕も楽しかったよ」
僕は素直に、愛の言葉に相づちを打つ。
今日は本当に楽しかったと思う。
あれだけたくさん遊んだのは、結構久しぶりのようにも感じられた。
「……なんでだろうね」
「なにが?」
愛が何かを言いかけているので、僕はその先の言葉を促す。
すると愛は、
「……今日は、いつも以上に楽しかったって思えるんだ。友達と来るよりも……もっと楽しいって思えたんだ。なんでたろう?」
愛から発せられた言葉は、疑問を表すものだった。
本当に……なんでなんだろう。
さっきまでは僕もそんなことを考えていた。
けど、僕は気付いたんだ。
「……僕達で行ったから、楽しかったんだよ」
「え?」
「僕は愛とこうして買い物に来れたから楽しかった。愛は僕と一緒にデパートに来て楽しかったって思ってるんだよね?」
「……うん」
若干躊躇いがちながらも、愛は頷く。
「つまり……その、好きな人同士でこうして一緒に出かけたから、いつも以上に楽しかったんだと思うよ」
「好きな……人同士」
その言葉を呟いた瞬間。
愛の顔は赤くなり、何だか湯気が見えたような気がした。
「あ、愛?大丈夫?」
「だ……大丈夫だよ」
まだ少し顔が赤い。
吉行に聞いたことがあるけど、女性が顔を赤くする時は……『恥ずかしい』時が多いって。
「ご、ごめん……こんな言葉、恥ずかしいよね?」
「……うん、確かに恥ずかしい……けど」
「けど?」
「……もっと言って欲しい……かも」
瞬間。
僕の顔が急速に赤くなっていくのを感じる。
こ、こんな気持ちに、愛もなっていたのか……。
ここがあまり人気のなさそうな公園でよかった。
「……ねぇ、健太」
「……何?愛」
愛が、未だに顔を赤くしながら、僕に何かを言おうとする。
その言葉は……。
「デートの最後なんだから……その、キス、してもいいかな?」
「……う、うん」
僕は、ただでさえ赤かった顔を更に赤くして、ようやっとそう返答をする。
い、今の言葉は強烈だよ、愛……。
「……じゃあ」
(ギュッ)
「……え?」
どうせキスするなら、と思って、僕は愛の体をギュッと抱き寄せる。
周りに人は誰もいない。
そして、夕日が浴びせられた公園。
そこにいる、男優と女優。
……うん、なんという絶好の場面なのだろうか?
「「……」」
僕らはただ黙って、互いの唇をつける為に顔を近づける。
近づける度に、僕の顔が更に赤くなっていくのを感じる。
そして、僕達の影は、一つに繋がった。
同時に僕は、言いようもない感覚に襲われる。
頭の中で、何かが崩壊するような音が響く。
更に、視界が急激に暗くなって、やがて僕の意識は……失われた。
予定より早いですが、早乙女愛編はこれで終わりです。