10-7 神様がくれたチャンス その7
「やった~!私が一番だ!」
「ま、まさかこの俺が負けるとは……不覚」
「もっと精進しなければ!」
そう言っているのは、大貴と吉行の二人だった。
大貴は悔しそうにしていて、吉行は滑りながら何処かへ向かっていく。
「でも、お兄ちゃんが最下位になるなんて……」
「珍しいことも起きるんだな……」
「まぁ……運悪く吉行にぶつかっちゃったのが原因かな」
「俺を陥れようとしたバチが当たったんだな」
「アンタがそんなこと言えた義理じゃないでしょ」
今の吉行の態度に呆れたのか。
美奈さんが、いつもなら見せることのない微妙な表情を浮かべながら、そう言葉を返した。
「……で、健太の罰ゲームだな?」
「う……なるべく軽いのでお願い」
僕に出来る範囲のものならいいな……。
例えば腕立て伏せとか……って、ここは氷の上だからかなり寒いじゃないか。
それなら、えっと……。
「う~ん……決まったよ!」
「お?意外と早かったな」
須永さんは、迷っていたにしては、決まるのが早かった。
それじゃあ、僕の罰ゲームが発表される時が来た……けど、トップが須永さんで良かった。
これが吉行とか美奈さんだったら、状況は更に悪化していたかもしれない。
「あ、あのね……」
「……うん」
何故か顔を赤くする須永さん。
……もしかして、恥ずかしい系の罰ゲームなのか?
「……私に、私の唇に、キスして欲しいな」
「……え?」
「「「「……へ?」」」」
頭の中に『?』が飛び交う。
えっと……今のは幻聴?
空耳?
どっちにしろ、僕は恐らく聞き間違えたのだろう。
だから改めて聞き直して……、
「私に、キスして!」
間違いではなかった。
それは間違いなく、『キス』という単語であった。
たった二語の単語であった。
それなのに、その言葉の重みは、かなりのものであった。
「……だ、駄目よ健太君!その命令は聞かなくても大丈夫なのよ!」
「そうです!聞きたくなければ、その命令を破棄することも……」
「諦めろ、二人共。これは義務だ」
「「そ、そんなぁ……」」
落ち込む二人を、和樹が宥めているのが見える。
……何だろう、凄く和樹に似合っているような気がする。
「健太君……」
「な、何?」
思わず和樹達の方を見ていた僕は、少し慌てて須永さんの方を見る。
……そこには、顔を真っ赤に染めて、上目遣いで僕を見る須永さんの姿があった。
こ、これはヤバい……ヤバいくらいに可愛い。
「……どうしたの?私とキスするのは……嫌?」
「嫌なんてことはないよ……ただちょっと緊張しちゃって」
多分だろうけど、須永さんにとって僕とのキスはファーストキスということになると思う。
その相手が僕なんかで、いいのだろうか?
「いいよ……きて」
「!!」
ま、マズイよ……僕の理性が危うく切れかかるところだった。
危ない危ない……。
「それじゃあ……するよ?」
「……うん」
須永さんに了承をとってから、僕はゆっくりと顔を須永さんに近づける。
段々とその距離は縮まっていき。
最後には、互いの唇が合わさりあったのだった。