10-6 神様がくれたチャンス その6
「それでは、第一回スピード王者決定戦を始めたいと思います!」
見学である美咲が、そう指揮を取る。
競技に参加しない近衛さんと美咲が、審判兼進行役を勤めることとなったからだ。
「ルールは簡単です。このリングを直線方向に滑っていき、最初にこの地点に到着した人の勝ち、最後に到着した人が罰ゲームです」
内容は、シンプルかつ厳しいものであった。
ようは、最下位にならないように頑張れってことなんだけど……。
「うししししし……健太、悪いが貴様には優勝は譲らないぜぇ?」
「……吉行、ヨダレヨダレ」
何を妄想しているのかは知らないけど、何だか吉行が物凄い表情をしている。
……トップにしてはいけない人がもう一人現れた。
「優勝して……健太君に……」
「……頑張りなさいよ、真弓」
「うん!真緒もね」
「もちろんよ」
あっちはあっちで互いを応援しあっている。
いいなぁ、ああいうやり取り。
こっちは隣から負のオーラしか感じないんだもの。
「優勝してあんなこともこんなことも出来るのは……俺だけだ。うししししし」
「……キモいぞ、吉行」
「何とでも言ってくれ……今の俺は、妄想こそ力になるのだからなぁ」
ヤバい、吉行が本格的に危険だ。
杏子ちゃんの方を見ながら何やらにやけているのが分かる。
このまま吉行をトップにした時に、もしも杏子ちゃんが最下位になってしまったとしたら……吉行は人としてもう戻れなくなってしまうかもしれない。
「……和樹、吉行の優勝だけは止めよう。みんなの貞操にも関わる」
「そうしたいのは山々なんだけど……こっちにも猛獣が一匹いてな」
「猛獣?……あ」
和樹の隣にいる人物を見た時。
僕は、すべての事情を察知した。
……そこには、吉行と同じ状況に陥っている和秀の姿があった。
「僕はこっちを抑えるのに手一杯だ。そっちは健太に任せる」
「……分かった」
ここは和樹の言った通りにしよう。
この場にいる猛獣は二体。
果たして……どうしたらよいものか。
「位置に着いて~」
考えているうちに、美咲がスタートの合図を言い始める。
僕達は一斉に滑る体勢に入る。
……隣からは荒い息しか聞こえてこない。
「よ~い……ドン!!」
(カッ!)
僕達はほぼ同時にスタートした。
僕は吉行の、和樹は和秀の前に行き、その進行の邪魔をする。
考えていることはほとんど一緒だったようだ。
「そんなのはな……妨害にもならねえよ!!」
「あうっ!」
(ガッ)
体を思い切り当ててきた吉行。
そのおかげで僕はバランスを崩し、その場で転んでしまう。
こうなったらすぐには立ち上がれない。
そうこうしている内に、みんなが折り返しているのが分かった。
「ああ……終わったな、僕」
結局のところ、僕は最下位という結果に落ち着いたのだった。
そして優勝は誰なのかと言えば、
「優勝は……須永真弓さんです!」
「やった~!」
意外にも、須永さんが優勝したのだった。