10-5 神様がくれたチャンス その5
和秀からの提案で、僕達はこのリングの中でレースをすることになった。
ルールは簡単、往復して一番にゴールした人の勝ちというわけだ。
そして最下位だった人が、最上位の人の言うことを何でも一つだけ聞くというものだった。
「……頑張ります!」
「これは全力でやるしかなさそうね」
「ま、負けないわ……!!」
何故か女性陣の目が血走っているようにも見えるけど、この際それは置いておこう。
そんな中で、辞退する人もいた。
「わ、私はパス……まだ滑れないし」
「私も……」
まずは美咲と近衛さんが離脱する。
滑れない二人は仕方ないよね……美咲は始めてなんだし。
「俺もパスだ。なんとなく興味が沸かないしな」
続いて大貴も辞退。
……二ノ宮さんが一緒にいないから、ヤル気がなくなってしまったのだろうか?
「ったく、大貴がやめるのかよ……情けないな」
「……何?」
あ、吉行が大貴に喧嘩売ってる。
「なんだなんだ?自分が負けることに対して怖気ついたか?」
そして何故か和秀までもが大貴にそう告げる。
……やっぱり、吉行と和秀って、どこか似てるよね?
「そこまで言うならやってやろうじゃねえか!ただし……俺がトップになった暁には、貴様らに制裁を加えてやろう!!」
「ま、どっちかが最下位にならないと意味がないけどね」
和樹……それはそうだけど、大貴のヤル気を下げることは言わないでよ。
「わ、私も頑張る……!」
「す、須永さん。嫌にヤル気ね」
「もちろん!……だって、ここには……」
須永さんと新井さんの二人の会話が聞こえてくる。
しかも、須永さんの表情は……何故か赤い。
「なる程ね……なら、頑張りなさい!」
「うん!」
あ、話が終わったようだ。
「健太君……私も全力で勝ちにいくからね!」
「珍しいね……かなえさんがそんなにヤル気を出してるなんて」
「もちろん!……だって優勝したら、何でも一つ命令できるんでしょ?」
「まぁ……それはそうだけど」
あれ、かなえさんってSだったっけかな?
少なくとも、こんな性格ではなかったと思うけど。
「恋は盲目……そういうことね」
「美奈さん……?それってどういうこと?」
「さぁね。ま、貴方が最下位になってみれば分かることよ」
「……?」
もしも吉行とかが最上位になったことを考えて、少なくとも最下位だけは免れたい。
そんなことを考えていただけに、僕はその言葉を挑発の言葉にしか聞こえなかった。
美奈さんがトップになったとしても、どんなことが起きるのか分からないし。
「ま、精々頑張ることね……最下位にならない為にも、ね」
美奈さんにそう言われた僕。
……よし、最下位にはならないように気を付けよう。
改めてそう認識させられたのだった。