10-3 神様がくれたチャンス その3
私達は今日、スケート場に来ていた。
理由はなんてことのない、和秀君の言葉だった。
「なぁ……暇じゃね?」
その言葉を、恐らく私達は何処かで思っていたのだろう。
反論する人などいなくて、その上意見まで出しあっていた。
「海とか行かね?」
「今は時期じゃないわ……凍え死にたいの?」
「じゃあスキーは?」
「金かかるから無理」
「それじゃあ……スケートなんてどうでしょう?」
止めをさしてくれたのは、めぐみちゃんでした。
みんなスケートに反対することなく、そして今日私達はここに来たと言うわけです。
「イナバウワアアアアアアアア!!」
ドスン!
和秀君が頑張ってそんなことをしていたら、腰から地面に衝突していました。
そもそも、借りたスケート靴でフィギュアスケートみたいなことは出来ないと思うけどな……。
「お前……つくづくアホだな」
「うるさい!ならお前は出来るのか?和樹」
「……流石にこの靴でやろうとするほど、僕だってバカじゃないよ。そもそも、イナバウワーって、滑りながらやるものじゃなかったっけ?」
「……そうだったぜ!危うく物事の本質を見失うところだったぜ……サンキューな!」
もう和秀君は物事の本質を見失っていると思う。
「じゃあ……トリプルアクセルやってみせてよ」
「任せろ!今の俺に、不可能などない!」
……真緒ちゃん。
どこまでSなの?
「よしっ!そこからトリプルアクセルよ!」
「あいよ!……って、どうやって回転すればぁあああああああああああ!!」
ドン!
今度は壁に激突して、和秀君は涙目になっていた。
……もうやめてあげようよ、みんな。
和秀君が泣いてるし……。
「大丈夫?和秀君」
「あ、ああ……何とか大丈夫だ」
そこに、美夢ちゃんが心配そうな表情をして駆け寄って来る……かと思ったら。
「けど……何処に滑って行くんだ?近衛」
「え、ちょっと待って、止まらない……キャアアアアアアアアアアアア!!」
ドン!
……犠牲者が二人目に。
「……二人共、大丈夫?」
私はとりあえず和秀君の体を起こしてあげる。
美夢ちゃんの方は、多分和樹君が起こしてあげていると思うから、私は和秀君の方を選んだのだ。
「あ、ああ……サンキュー、須永」
和秀君は私にそうお礼を告げてから、私の手を掴んで起き上がった。
「……残念ね。折角小日向のトリプルアクセルが見れると思ったのに」
「出来るかよ!ああいうのはな、練習してきた奴等が習得出来る奥義みたいなものなんだよ!俺に出来るわけないだろ!」
確かにその通りだと思う。
「……あの、あれ」
「うん?……え?」
めぐみちゃんの指差した方を見てみると……そこにはトリプルアクセルを見事成功してみせた女の人がいた。
……え、あれ?
「……美奈さん、一体何処で練習してきたのさ?」
「してないわよ……ただ、テレビを見て学んだだけよ」
「ある意味練習するよりすげぇよ……」
……この声って、まさか。
「……あ、和樹!」
「健太じゃないか!」
……そこにいたのは、健太君達だった。