9-6 その先に何を求める その6
それからお互いにその話題について触れることはなかった。
アメリカに行くこと、夕夏さんの僕に対する想い。
まるでそれらのことを何一つ話さなかったかのように、僕らは振る舞った。
そしてそのまま、夕夏さんの出発の日になってしまった。
「「……」」
空港に、僕達はいた。
けれど、他の人達はどうやら用事が入ってしまっているようで、見送りには来れないらしい。
一応最後にパーティーを開いていたので、他の人達はそこでお別れの言葉等は言ってあった。
だから、夕夏さんと僕の、二人きりで空港にいた。
「……あ」
「……」
けれど、互いに話す内容が見当たらない。
話題に困っているとか、そういう問題ではなかった。
この場において……本当に僕達は話してもいいのだろうか?
疑問はそこまで発展していた。
それよりも……かなり気まずい空気が流れているのが、僕にも嫌と言うほど把握することが出来た。
「あ、あのさ……」
「何かしら?」
最初に口を開いたのは僕だった。
だけど……話す内容が見当たらない。
どうしよう……これから僕は、どう話を繋げるべきなのだろうか?
「その……向こうに行っても、病気とかにならずに頑張って……ね?」
「……お気遣い、光栄ですわ。ですが、その心配には及びません。私は体調管理は割りとしっかりとしてる方だと思っていますから」
「そ、そう?……ならいいんだけど」
恐らく僕は今、端から見れば挙動不審な態度をとっているようにも見えるだろう。
確かにその通りなのかもしれない……僕は実際、挙動不審になっていた。
「それじゃあ私は……そろそろ行きますわね」
「……あ」
クルリと踵を返して、夕夏さんは乗り場の方へと向かう。
……何か言わないと。
このままお別れなんて……何故だか知らないけど、僕の脳が何かを言えと命令させていた。
何かを言えって言われても……僕はこの場において何を言ったらいいのだろうか?
分からない……皆目検討もつかない。
悩むこと、数十秒。
「……夕夏さん!また僕達……会えるよね?」
ようやっと出た一言は、そんな感じの疑問の一言。
その言葉を聞いた夕夏さんは、一旦その場に立ち止まると、顔を一度だけ僕の方に向けて、
「もちろんですわ!だって……私達は親友なんでしょう?」
「!!」
そうだ、何を恐れていたのだろう。
僕達は……親友じゃないか。
つまり、またいつか、巡り会えるということではないか。
「そっか……そうだったね」
「……ええ、そうですわ」
やがて夕夏さんは、僕の顔を見ていた状態から、そっと前を振り向いて、キャスター付きの荷物を引いて、そして何も言わずに去って行った。
だって……さよならは言わないもの。
目と目が合った瞬間に、僕は夕夏さんとこう言葉を交わしたから。
また、何処かで会おう。
少々短めですが、これで佐伯夕夏編は終わりです。