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9-4 その先に何を求める その4

「未練を……断ち切る?」

「……うん」


残った未練を断ち切りでもしないと、前に進めない。

僕は、そう思うんだ。

でも、その未練はきっとなかなか断ち切ることが出来ないものだってことも分かってる。

……それでも、僕はそうしてから前に進むと思う。

そうじゃないと……夕夏さんの場合に当てはめるけど、アメリカに行ったとしても、僕はそっちでやっていける自信がない。

いつかきっと……後悔する日が絶対訪れるだろう。


「……そうですの。やっぱり、そう……」

「……もしかして、夕夏さんも?」

「……少しはそのことを考えていましたわ。けれど、誰かに同じことを言ってほしかったのかもしれません」


……そうか。

夕夏さんも、そのことについては少なからず考えていたというわけか。

それなら、どうして僕を呼んだのだろうか?

夕夏さんの疑問は、すでに解決しているのも同然だったはず。

最後の確認を取るのが、夕夏さんの目的なんかじゃないはずだ。


「それじゃあ……どうして夕夏さんは、僕のことをここに呼んだの?」

「……」


それを夕夏さんに尋ねると、夕夏さんは一瞬黙り込んでしまう。

けれども、やがてすぐに決意を秘めたような表情を僕に見せ、言ったのだ。


「……私の未練を、断ち切る為ですわ」

「夕夏さんの……未練?」


夕夏さんにとっての未練って、一体何なのだろう?

少なくとも、その為には僕が必要なのだろうか?


「……夕夏さん。君の未練って、一体……」

「……私の未練。それは、貴方よ」

「……え、僕?」


夕夏さんにとっての未練は、僕?

それは一体、どういうことなのだろうか?


「アメリカに行く前に、どうしてもお礼と伝えたい言葉があるのよ」

「お礼……伝えたい言葉……?」


それらは僕にとってはよくわからないことだった。

一体、夕夏さんが僕に言いたいことってなんなのだろうか?


「まずは……貴方にお礼から言おうと思いますわ。あの日、私を孤独の毎日から救い出してくれたことに関しての」

「あの日?……ああ」


あの日というのは、夕夏さんが転入してきた時のことを指すのだろう。

前の学校で色々あった夕夏さんは、友達を作ろうとは決してしなかった。

けれど、僕達の頑張りのおかげで、どうにか夕夏さんと友達になることが出来たのだ。


「あれは僕が勝手にそうなったらいいなって思ったからやったことで……正直迷惑なんじゃないかって思ってたけど……」

「いいえ、それは違いますわ。私はあのまま、孤独の毎日を過ごしていてはいけなかったんですの。それを教えてくれたのは……まぎれもなく貴方ですわ、健太」


笑顔で僕にそう言う夕夏さん。

……出会った当時はそれこそ僕は夕夏さんに嫌われてたみたいだし。

あの頃から比べてみれば、僕は夕夏さんと仲良くなれたことを実感することが出来た。


「……その後も、私の為に色々と助けてくれて」

「友達として当然のことをしただけだよ。僕は褒められるようなことは何もしてないよ」

「でも、そのせいで健太は記憶を失う羽目に……」

「……そのことはもういいんだよ。僕の不注意が招いたことでもあるんだし」


あの光が一体なんなのかは未だに分からないけど、もうそんなのはどうでもいい。

夕夏さんが無事なら、それでいいのだから。


「……それで、私が貴方に言いたいことがありますの」

「……」


これは、絶対に聞き逃してはならない。

僕の勘がそんなことを告げていた。


「一度しか言いませんので聞き逃さないでください……」

「……うん」

「私、佐伯夕夏は……」


夕夏さんはそこで言葉を溜めて、そしていい放った。















「私、佐伯夕夏は、貴方……木村健太のことを……愛しています」















その時。

僕の体が、一気に硬直したのが分かった。
















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