9-3 その先に何を求める その3
昼休みになった。
僕は夕夏さんに言われた通り、屋上へと向かう。
教室を出て、階段を上へと登って行く。
先に教室から出ていった夕夏さんは、恐らくすでに屋上で待機していることだろう。
「……」
階段を登る間、僕は特に考えることもなかった。
ただ、屋上へ行くことに集中し、何か別のことを考えようともしなかったし、ここから立ち去ってしまおうとも考えなかった。
屋上へ行かないなんて選択肢は、僕の中では元々なかった。
「……ふぅ」
ちょっとした溜め息をつく。
いつの間にか、階段を登りきっていて、もうこれ以上は段差がないというところまで来ていた。
……後はこの扉さえ開いてしまえば、屋上にたどり着く。
恐らくこの先には、夕夏さんが待ち受けていることだろう。
「ハァ……ふぅ」
扉の前で深呼吸をする。
若干荒かった息を整えた後、僕はその扉を開いたのだった。
(ギィッ)
ドアノブを回し、扉を開く。
無機質な音を響かせて、すぐに扉は開いた。
そして、僕が屋上に顔を出したその先に、
「……待ってましたわ、健太」
「ごめん……ちょっと遅れちゃったみたいだね」
フェンスに寄り掛かるようにして立っていた、夕夏さんの姿が最初に目に写る。
僕の姿を確認すると、ゆっくりとこっちに近づいて来た。
「……あの、夕夏さん。それで、話というのは」
「そのことなんですが……私が海外留学するかもしれないという話を、聞き覚えは?」
「……あるよ。今朝美奈さんから聞いた」
特に隠すようなことでもないし、普通に答えてしまっていいだろう。
そう思った僕は、特に隠す様子もなく、そのままのことを答えたのだった。
「……そう。貴方も知っていたのね」
何やら意味深な言葉を呟く夕夏さん。
その後で、
「……私、そのことで今、悩んでいますの」
「留学の件で?」
「……ええ、そうよ」
美奈さんの言う通りだった。
夕夏さんはこの留学についてはあまり乗り気ではないようにも見える。
しかも、親の会社の都合で海外に向かうという可能性もあるわけだから、もしかしたら日本にしばらく帰って来られなくなってしまうかもしれない。
僕だったら……一人暮らしをしてでも自分の家に残るな。
「海外留学は、私の小さい時からの夢でしたわ……様々な国の人達と喋ることが、とてつもなく凄いことだなぁって、小さい時に思ったから」
「……」
「けど……今ではこの地に未練が出来てしまいました。だから、私はどうするべきなのか……分からなくて……」
難しい質問だった。
少なくとも、僕の頭の中にはその質問に答えられるほどの知識しか持ち合わせていない。
「……夕夏さん」
「何よ?」
だから質問の答えではなく、僕だったらどうするかを伝えた方が遥かに早い。
そう考えた僕は、
「……ここからは、僕だったらどうするかということだから、参考程度に思ってね」
「……ええ」
その時の僕の行動を一行でまとめるのなら、
「僕だったら……残った未練を断ち切ってから、海外に行くな」