9-1 その先に何を求める その1
私はどういう選択をすればいいのだろうか?
私の夢に向かって走るべきか、それとも私の幸せに向かって走るべきか。
出来ることなら両方叶えたい……けど、それが欲張りなのも分かってる。
二兎を追う者一兎も得ず。
そんなことわざがこの国にあるように……私もまた、何かを求めすぎているのかもしれない。
分かっているのに、求めずにはいられない。
それが私の……『願い』だから。
第九のカケラ その先に何を求める
「え?夕夏さんが転校するかもしれない?」
僕が学校に来た時、美奈さんからそんな話を聞かされた。
吉行達も、そんな美奈さんの言葉に驚きを見せていた。
「どういうことなんだ?それは」
大貴が美奈さんに尋ねる。
美奈さんは、特に表情を変えずに答えた。
「何でもアメリカに留学するかもしれないという話よ……かなり急な話みたいだけど」
「どういうこと?」
「何でも親の海外転勤がきっかけみたいね……それと本人の前から考えていたアメリカ留学が重なった結果ね」
「なるほど……」
親の転勤かぁ……。
夕夏さんの両親ならそんな可能性も十分あり得るなぁ。
何せ大手会社だもんな……。
「ところで美奈さん。その話はどこで聞いたの?」
さっきから気になっていたことを、僕は尋ねる。
まさか本人から直接聞いたってわけじゃないだろうし……。
先生か誰かから聞いたのだろうか?
「先生と夕夏が話していたのを、偶然耳にしただけよ。だからどこまでが本当の話なのかははっきりしてないわね。本人も迷っているみたいだしね」
「迷ってる?さっき美奈は佐伯さんが望んでることだって言ったわよね?」
かなえさんの言うとおりだ。
さっき海外留学は夕夏さん本人の希望だと言った。
なら、どうして夕夏さんはそのことに対して迷いを見せているのだろうか?
「……さぁ、直接的な理由はさすがに本人に聞いてみるしかないわよね。けど、少なくとも貴方が絡んでるかもしれないわよ……健太」
「え?僕?」
「かもしれないな……俺もそう思う」
大貴もその考えとは……。
というか、ほとんどの人が頷いてるし。
「さ、流石に僕がそこまで絡んできてるとも思えないけどな……」
「何言ってるんだよ?天然女たらしがよ」
「女たらしって……人聞きが悪いなぁ」
僕は別にそんなつもりなどさらさらないと言うのに。
一体どういうことなのだろうか?
「……やはり無自覚というのが一番恐ろしいよな」
「本当だね……流石は健太君だよね」
「か、かなえさんまで……」
まさかかなえさんにまで言われるとは思っていなかった。
それだけに、少しダメージは大きい。
「佐伯も木村の餌食となったわけか……」
「だからそういう言い方はやめてよ!」
何だか僕が悪いみたいじゃないか!
そう繋げようとしたところで、
(ガラッ)
「……あ」
佐伯さん本人が、教室に入ってきたのだった。