0-9 Mistake
―――ん。
何時ものように目が覚める。
ここは、『世界のカケラ』が散らばる世界だ。
ということは……僕はあの世界から戻ってきたということか。
しかし、あの世界での音羽さんの境遇はあまりにも酷かった。
まるですべての障害が一気に現れたかのような、そんな感じだった。
「否、あの世界における歪みは、たった一つのみであった」
―――マリアさん?
そこでマリアさんからの言葉が聞こえる。
今回は姿を現しているみたいだ……ただし、その姿は、時折透けているようにも見えた。
―――え?
一瞬、自分の目を疑った。
マリアさんの体が透けているなんて……おかしいだろう。
そう思った僕は、一旦目を閉じて、もう一度開いて見る。
だが、現実はそう簡単にはいかなかった。
―――マリアさん、その体……どうしたの?
マリアさんが答える。
「カケラの消失と共に、我の体は消えることとなっておる。何故なら我とかの世界は一心同体だからだ。この世界なくして、我は生きていくことが出来ぬのだ」
……要するに。
僕が今までやってきた行動によって、マリアさんが苦しんでいるということになるのか。
……知らなかった。
まさかマリアさんが、この前姿を現さなかったのも、このことが原因……?
「さて、我のことはよいのだ。そのことは後程ゆっくり話してしんぜよう……して、水島音羽の件だが、あの父親の行動は決して障害なんかではない」
―――そ、それじゃあ一体……!!
そこで僕は気付いた。
このカケラの世界は、それぞれの叶えたかった願いが込められたものだ。
だから、その人の記憶によっても構築されるのだということを……。
―――まさか、音羽さんは。
「うむ。過去にあのような経験をしておる。ただ、現実世界では、父親は交通事故に遭って亡くなっておるそうじゃ」
―――交通事故、か。
なるほど、音羽さんの叶えたかった願いというのは、父親と幸せな日々を過ごすこと。
もしくは、死んでしまった父親がもしも生きていたとしたらどうなるのか。
そのことについて知りたかったのではないだろうか?
「……では、そろそろカケラを選ぶがよい」
―――うん。
残るカケラは5個。
内、正体不明のカケラが一つ。
―――これにしよう。
「そのカケラでよいのだな?」
―――うん。
僕が選んだカケラには、夕夏さんの姿が写っていた。
「では……念じよ」
―――……うん。
僕は念じる。
そしてしばらくして、僕の意識は何処かへ消え去って行った。