8-7 希望を落とした少女 その7
「……失礼するわね」
美奈さんは、誰かからの許可をもらったわけでもなく、部屋の中に入ってきた。
……何時もとは違う、真剣な表情をしながら。
「……君は誰だい?ここは部外者以外は立ち入り禁止のはずだぞ」
「そんなことなんてどうでもいいでしょ……今はそれ所じゃないでしょうに」
挑発するように、美奈さんは言う。
……確かに、美奈さんの言ってることに間違いはない。
僕らの中では、それよりももっと深刻な問題があった。
「……一応用件だけは聞こう。こんな時に生徒会室に何の用だ?」
「水島音羽のことで……協力してあげようと思ってここにきたわ」
「「「「「!!」」」」」
僕達は、美奈さんの言葉に対して驚きを見せずにはいられなかった。
……このタイミングで美奈さんが生徒会室に来たということは、美奈さんは何かを掴んでいるということか?
「お前には関係のないことだ……外部の者は、この問題に関わるべきではない」
「会長!?」
しかし、会長は美奈さんの登場をあまり快くは思っていない様子だった。
……恐らく、美奈さんの態度にも少なからず怒りを感じているのだろう。
「あら、こういうことには、多く人間を投入する方が得策だとは思わないのかしら?それに、あなた達は、どうしてこの案件を先生に伝えるということをしないのかしら?」
「そ、それは……」
確固たる証拠が見つからない限り、先生達もまた動いてはくれないと思ったからだ。
僕達からしてみれば真剣な問題でも、先生達にとってみれば、一人の生徒の欠席の理由なんて本当に些細なことにしか過ぎない。
「……先生達に相談するだけ時間の無駄だと考えたのね。そうね、先生が家庭訪問したところで、結局は演技でも仲のいい家族を演じるはずだものね」
「……」
美奈さんは、そこまで想像がついていたのか。
やはり美奈さんは、凄い……。
「会長~、ここは手助けしてもらった方が効率もよくなると思いますよ~?」
「……どうやらそうみたいだな」
三倉先輩からの押しの一言があったためか、会長はついに美奈さんからの応援を受け入れることにした。
「……誰かに訴えるにしろ、証拠が必要よ。けど、その証拠ならすでにここにあるわ」
「証拠?」
思わず真鍋先輩が美奈さんに尋ねる。
すると美奈さんはポケットの中から何かを取り出した。
細長くて銀色のボディをしたそれは、
「……ボイスレコーダー?」
「そうよ。これは昨日、あらかじめ音羽のカバンの中に入れていた物よ……勿論この中には、昨日の音羽と父親のやり取りが録音されているわ」
(カチッ)
そう言いながら、美奈さんはスイッチを押す。
すると、
『誰か……誰か助けて!!』
「「「「「!!」」」」」
昨日も聞いたが、音羽さんの悲鳴が聞こえてきた。
……これは確かなる証拠となりそうだ。
これを警察に持っていけば……!!
「これを警察に持っていけば、音羽さんはきっと楽になれるはずだ!!」
「……少なくとも、今の状況からは脱出出来るだろうな」
吉田先輩からの言葉もくる。
「……ありがとう美奈さん!これで音羽さんを助けることが出来るよ!」
「……なら、早く行きなさい」
「……うん!先輩達、急ぎましょう!」
「ああ!!」
僕達は、美奈さんから譲り受けたボイスレコーダーを片手に、警察に向かう。
待っててね、音羽さん……もうすぐで、すべてが終わるから。