8-6 希望を落とした少女 その6
次の日。
放課後になって生徒会室に行ってみれば……。
「今日は音羽ちゃん欠席なのね~」
「……そうだな。一人いないだけでも、この生徒会室も寂しくなるものだな」
音羽さんは、学校を休んだ。
理由は風邪ということになっているが……多分精神的に疲れているんだと思う。
「それで、木村……今話したことは本当なのか?」
「……はい、本当です」
会長に昨日起きたことをありのままに話した僕。
会長は、手に持っていた資料を机の上に置き、
「……最悪の事態だ」
そう呟いていた。
「いつも元気な音羽だからね……最後までいかないと、本当に何があったのか分からないから」
「真鍋先輩……」
真鍋先輩の言う通りだ。
明るくて元気なタイプと言うのは、逆に本当に困っている時、助けて欲しい時に、誰かに悩みを打ち明けるとか、そう言った類いのことをすることが出来ないのだ。
自分の弱い部分を、相手に見せることが出来ないのだ。
「……どうする?」
「どうすると言われても……」
吉田先輩からの質問に、答えられる人は誰もいない。
……こんな事態まで陥ってしまっているというのに、僕達は助け船すらも出せないでいるなんて。
……なんて、無力なんだ。
他人でいることが、ここまで枷になっているなんて。
「……水島は俺達の大切な仲間だ。何としても助けてやりたい……」
「けど会長~作戦はあるのですか~?」
「それは……今から考えよう」
三倉先輩の言葉に、会長がそう答える。
なるほど……ここは生徒会だ。
話し合って決めるのもありということになる。
「一人でウジウジ考えたって、何の案すら思い浮かばないだろうからな。幸いにも、ここには五人の人間がいるんだ……何かいい案が出るかもしれない」
「……会長も、決める時には決めるんですね」
「俺は常にまともに頑張ってりつもりなんだけどな……」
確かに、生徒会の業務は真剣にとりかかっているとは思う。
いい言葉で表現すると、メリハリがついている。
悪く言えば……落差が激しいと言うべきだろうか。
「……会長のことはともかく、意見ならありますよ」
「なんだ?何でも言ってみろ」
吉田先輩が手を上げて、そして言った。
「事がここまで進行してしまったのです……本人に助けを借りるように説得するべきです」
「……それは難しいだろうな。木村の話を聞く限り、水島は自分の心と体が崩壊するまで、あの父親の元にいるだろうからな」
……会長の言う通りだ。
音羽さんからは、決して助けを乞おうとはしないだろう。
何故なら、それが罪滅ぼしだと思っているから。
自分に課せられた、義務だと考えているから。
「……私達の手で、警察に訴えかけるというのは?」
真鍋先輩がそんな案を出してくる。
これが一番早い方法だと僕は思う。
けど……。
「駄目だ。証拠不十分で追い払われるのが現実だ」
「……」
もうこれ以上の案はないと思う。
警察にこのことを話せないのなら、僕達はどのようにして音羽さんを助けたらいいというのだろうか。
……こうしている内にも、音羽さんは傷ついているかもしれない。
なのに、黙ってその行く末を眺めているしかないなんて。
そんなの……、
「そんなの理不尽だよ!」
(バン!)
思い切り机を叩く僕。
右手が痛い……けど、こんな痛みはまだまだ軽いものだ。
音羽さんが味わっている苦痛に比べてみれば……いや、天秤にすらかけられない程に、軽い痛みだった。
「……困っているようね?生徒会の方々?」
「……え?」
その時。
(ガラッ)
誰かが生徒会室に入ってきた。