8-2 希望を落とした少女 その2
次の日。
音羽さんは学校に遅刻してきたらしい。
……前まで遅刻なんて一回もしたことのなかった音羽さんが遅刻してきたことは、クラスメイトにとってもかなり驚きのことだったらしい。
「実際俺も驚いたぜ……まさかあの水島が遅刻するとは考えてもいなかったからよ」
事実、この話をしてくれた智也もまた、驚きの表情を見せていた。
……音羽さん、本当にどうしたと言うのだろう?
今までの音羽さんとは、行動パターンが違いすぎる。
これは絶対に、音羽さんに何かがあったと思わざる負えない。
……期日は早まったけど、今日行くしかない。
このままの調子で行けば、音羽さんはきっと……。
「何思い詰めたような表情をしてるのよ?」
「……この声は、美奈さん?」
美奈さんの声が聞こえたので、僕は後ろを向く。
そこには、相変わらず何を考えてるのかよく分からない美奈さんの姿があった。
「……何か考え事でもあるのかしら?」
「……うん」
多分、美奈さんには僕の悩みの内容はバレていると思う。
何故なら、美奈さんはそういう人だからだ。
「水島音羽のこと、であってるわね?」
「……うん」
やはりそうだ。
美奈さんには、気付かれていた。
「そして、水島音羽の不自然な行動の真相を知るために……本人には内緒で尾行をしようとしている」
美奈さん相手に隠し事なんて出来やしないのではないか。
僕はその日、そんなことを考えていたのだった。
「それにしても、健太も健太ね……どうして他人の為にそこまで必死になれるのかしら?」
「……それは」
その理由は、僕にすら分からなかった。
どうして僕は、音羽さんを助けたいなんて考えたのだろうか?
……いや、理由が分からないんじゃない。
分かろうとしていないんだ……僕の脳が、そのことについて考えようとしなかっただけなんだ。
「……大切な友達だから。友達が困っているのなら、どんな手段を使おうと、僕はその人を助ける」
「……そう。なかなかいい心構えじゃない」
そう言いながら、美奈さんは何かを放り投げてきた。
僕は慌ててそれを取り、何なのかを確認する。
……それは四角で黒い何かと、それに繋がっているイヤフォンだった。
何だろう、これ……。
「あらかじめ水島音羽に盗聴機を着けておいたわ。これはその音を聞き取る為の機械よ」
「盗聴機……」
いつの間にか美奈さんはそんなものを着けることが出来たのだろうか。
それに、どうしてこれを……。
「貸しはこれで一つよ、健太。貴方が考えてたことなんて、少し頭を使えば分かるんだから」
つまりは、今までの音羽さんの噂と、僕の様子を照らし合わせて、僕が音羽さんのことについて悩んでいるという考えに結び付いたというわけか。
……流石は美奈さんだ。
「……ありがとう。この借りは、いつか返すよ」
「……頑張りなさい」
美奈さんから応援の言葉を受け取ったことで、僕の決意は崩れることのない強化ガラスのように固くなったのだった。