7-4 貴方にささげるLove song その4
そして、とうとうその日がやってきた。
僕は受付の人にチケットを見せた。
すると、その受付の人は、
「木村健太様ですね?」
と、何故か僕に向かってそう尋ねてきた。
「え?あ、はい。そうですけど……」
思わず僕は、言葉を選ぶのに必死になってしまう。
そんな僕に構わず、受付の人は話を続けた。
「MAKOちゃんからは話しを聞いています。今日はごゆっくり、お楽しみください。それと……」
「な、何でしょう?」
受付の人は、笑顔で僕にこう言ってきた。
「願わくば、どうかお幸せに」
僕は、この言葉の意味を理解することは出来なかった。
中に入ってみると、すでに人は何人もいた。
僕の席は、そんな中で一番前という絶好のポジションにあった。
……こんな位置のチケットをくれるなんて、マコはやはり凄い。
「けど、僕一人か……」
今回は僕以外の知り合いはいない。
だから、僕の周りには知らない人しかいないというわけだ。
……なんとも微妙な感じだ。
いくらマコのライブを見に来たと言ったって、こんな気持ちの中、ノリきれるかどうか分からない。
「……今日はおとなしく見てることにしようかな」
けど、一番前だとマコの姿がよく見えるからな……。
それは逆に、マコからも僕の姿が見えるということにも繋がるわけであって。
「……大丈夫かな、今日の僕」
正直、押されてしまうような気がする。
……僕も一応頑張らないとな。
周りの空気がすでに燃えていることだし。
「MAKOちゃ~ん!!」
「愛してるぜ!!」
「新曲聞かせてくれ~!!」
「羨ましいぞこの野郎!!」
……最後の言葉は、一体誰が誰に向けて発した言葉なのだろうか?
まったく分からないまま、
(プシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ)
ステージより白い煙が舞う。
そして、
「「「「「「「ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」」
大歓声。
それと同時に現れたのは、
「みんな~!今日はボクの為に来てくれてありがとう!!」
ステージ衣装に身をまとった、マコの姿。
その姿は、とっても可愛くて、魅力的だった。
「それじゃあ一曲目、行くよ~!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」
雄たけびにも似たこの叫び声は、僕にはノイズのように聞こえて仕方がない。
けど、今はライブなのだ……こうしてみんなで楽しく。
歌っている人も、聞いている僕達観客も楽しむのがライブというものなのだろう。
……現に僕は、先程までの気分なんてとっくに吹き飛んでいた。
今日は、思う存分楽しもう。
マコもあんなに楽しそうに歌っているのだ。
聞いてる僕達が楽しくないわけない。
そんな僕の気持ちが高ぶったおよそ一時間。
「短いお時間でしたが、これで今日最後の曲になっちゃいます……」
「「「「エエエエエエエエエエエエ!!!!!!」」」」
名残惜しむように、観客達は声を合わせて叫ぶ。
……となると、最後の曲というのが、
「最後に、ボクが初めて作詞をした曲を聞いてください!曲名は、『貴方にささげるLove song』です!」
そう告げると共に、辺りは一気に静まりかえる。
……マコが自分で作詞をした、初めての曲。
それは、静かな調と共に、始まった。




