0-7 Unusual
―――ん。
目が覚める。
……何だか、今回は特別な目覚め方だ。
世界が崩壊する時の、あの感覚がなかった。
……まさか、願いは叶っていないのではないだろうか?
「いや、海田杏子の願いは叶っておる」
―――マリアさん。
マリアさんは、その姿を現して、僕に向かってそう言った。
……なら、どうして今回の場合、世界が崩壊するような描写がなかったのだろうか・
「うむ。今回の世界は異例なのだ。障害が多すぎたが故に、世界が崩壊した時の感覚も薄らいでいたようだ」
―――今回の障害って、多分だけど、杏子ちゃんの記憶喪失……だよね?
「その通りだ」
やはり。
杏子ちゃんが記憶喪失になりたいなんて願いを込めるはずがない。
だとするならば、杏子ちゃんの記憶喪失は、カケラの世界に多く散らばっている、障害である他はないだろう。
―――それじゃあ、杏子ちゃんの願いというのは?
「……今回ばかりは、さすがに我にも判別しようがないな。だから今回は、無駄な詮索はなしにしよう」
……うん、そうだね。
本来ならば、他人の願いなんて聞くものじゃない。
ある意味では、人のプライバシーを覗くようなものなのだから。
……それに近いことを、僕は今やってきているわけなのだが。
「それでは、次のカケラを選ぶのだな……ん」
―――どうかしたの?マリアさん。
その時。
マリアさんの表情が、一瞬ゆがんだようにも見えた。
美しい女神の表情が、苦しそうなものに変わったように見えたのだ。
「……なんでもない。早くそなたはカケラを選ぶのだ」
―――う、うん。
そう言われては、僕としては何も言い返すことが出来ない。
ここは素直に、カケラを選ぶことにしよう。
……それにしても、もう半分まで来たのか。
杏子ちゃんのカケラで六つ目だから、次は七つ目なのか。
……どれにしよう。
ここまで来ると、そろそろどれにしようか迷ってくる。
―――これにしよう。
そう呟いて、僕が選んだカケラの中には……明るい笑顔を振りまいているマコの姿があった。
今度は、一体どんな世界になるのだろうか?
「雛森マコの世界に行くのだな?」
―――うん。
「ならば……」
―――分かってる。やることは、もう分かってるよ。
カケラを両手で包んで、僕は目を閉じる。
そして、強く念じる。
僕を……このカケラの世界へ誘ってくれるように。
すると、
「……うっ」
―――マリアさん?
突如、マリアさんが少し苦しみ出した。
「……大丈夫だ。続けるがいい」
……何だか少し心配になったけど。
僕は僕で、やらなければいけないことがある。
みんなの願いを叶えて……このカケラの世界を、終わらせなくてはならない。
そして、みんなを元の世界に返さないといけないんだ。
そして僕の意識は、カケラの中に吸い込まれた。
というわけで、次回からは『雛森マコ』編に参りたいと思います。
これで、ヒロインは七人目。
折り返し地点へ参りました。