表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/106

6-9 失われた記憶 その9

私が……健太さんのことが『好き』?

しかも、その『好き』は、私の『恋愛感情』から来ているものなの?

私の頭は、少し混乱していた。


「杏子ちゃんはね……多分だけど、初めてお兄ちゃんに会った時から、好きになってたんだと思うよ?確証はないけど、多分そうだと思う」


根拠はないらしいその一言だが、私にとってはかなり意味のある、私が欲しかった『きっかけ』となる言葉だった。

自分の気持ちに気付く、最大のきっかけとなったのだった。


「……私はお兄ちゃんの妹でもあり、杏子の親友でもある。だから私は、二人の幸せを、願ってる」

「……ありがとう、美咲ちゃん」


自分の気持ちは分かった……けど、どうして健太さんのことが好きになったのかの理由は分からないままだった。

こればかりは、失った記憶を取り戻さない限りは思い出すことが出来ないものなので、私はどうすることも出来なかった。


「……どうかな、これで自分の気持ちに気付けたかな?」

「……え?」


確かに、私の気持ちには気付けた。

けど、どうして美咲ちゃんがそんなことを尋ねたのだろう?


「分かってたんだ……お兄ちゃんを見ている時の杏子ちゃん、嬉しそうではあるけど、何だか迷っているような感じでもあったことを」

「あ……」


そうか、美咲ちゃんは気付いていたんだ。

私が、健太さんに対する想いについて悩んでいることに。


「でも、どうして分かったの?」


私は美咲ちゃんにそう尋ねた。

すると美咲ちゃんは、


「分かるよ、このくらい……だって私達は、親友だから」

「!!」


そう返されるとは思ってもみなかった。

記憶を失った私でも、『親友である』と言ってくれただけで、私の心は満たされていた。


「……私、決めた。健太さんに、この想いを伝えてみる」

「……うん、それがいいよ。鈍感なお兄ちゃんは、告白しないと全然気付いてくれないしね」


そうなんだ……健太さんって、そういうことには鈍感なんだ……。

ひょっとしたら、健太さんに惚れているのは、私だけではないのかもしれない。

ライバルは多くいそうだな……けど、こういうのは先に言った方の勝ちって言うよね?


「……話はこれでおしまい」

「え?」


どうやら私と二人きりになって話すことは、すべて話終えたらしい。

美咲ちゃんは、ドアの近くまで歩いていき、そこで一旦立ち止まる。


「それじゃあ……お兄ちゃん達を呼んでくるね?杏子ちゃん」

「……うん、待ってる」

「すぐ来るから!」


そう元気そうに言った美咲ちゃんは、勢いよく扉を開き、そこから出ていった。

同時に訪れる、静寂の時間。

けれど私は、この時間が寂しいものだとは思わなかった。

むしろ、自分の気持ちを整理するのにちょうどいい機会だとも、思っていたところであった。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ