表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/106

6-6 失われた記憶 その6

そして僕達は、そろそろ帰る時間帯となった。

本来ならもう少しいたい所だけど、僕も吉行も、さすがにこれ以上は残るわけにもいかない。


「それじゃあ杏子……そろそろ俺達は帰るな?」

「あ、うん……それじゃあね」


浮かない表情で、杏子ちゃんは言う。

……何だかあっという間の時間だった気もするけど、頭に会話の内容なんかほとんど入っていなかった。

僕は、杏子ちゃんの変化について、ずっと気になっていたからだ。

けれど、僕が気にしたって仕方のないことだ。

だから僕は、


「また今度ね、杏子ちゃん」

「……うん」


杏子ちゃんにそう告げて、僕と吉行は、部屋を出たのだった。


「……吉行」

「何だ?健太」

「……明日も、来る?」


出てすぐに、扉を閉めた後に、僕は吉行にそう尋ねた。

吉行は答える。


「……ああ。杏子が記憶を取り戻すまで、杏子の昔話をしてやるつもりだし、これからも、俺の周りで起きた話を、色々していくつもりだ……健太、協力してくれるか?」


吉行に逆に質問される。

……僕の答えは、決まっていた。


「もちろんだよ。僕だって杏子ちゃんが記憶を失ったままなんていうのは嫌だから……それに、記憶を失った時のつらさを、知ってるから」

「……そうだったな。お前も、前に記憶を失ってたっけか」


吉行は、僕にそう告げる。

僕は無言で頷いた。


「……んじゃ、帰るぞ健太」

「……うん」


気分はあまり晴れないけど、僕達は帰路につくことにした。












何だろう、この気持ち。

健太さんと話していると、何だか胸がドキドキするような……。

思い出さなくてはいけない……忘れていてはいけない。

そんな気がするのは。


「……今日の朝のことも、原因なのかな」


今朝、私はこの病院の男の子に告白された。

どうやら一目ぼれだったらしくて、私が記憶を失っていることも知らなかったらしい。

けれど、私はそのことは言っていなかった。

……というか、あったのはあの時が初めてだったから、伝えようにも伝えることが出来なかった。

……それに、私がその告白を断った時の言葉が、


「ほ、他に好きな人が、いるので……」


という、今の私にはよくわからない言葉が出てきた。

……何でだろう。

記憶を失った私には、『お兄ちゃん』と『健太さん』、それに『お兄ちゃんの友達』としか関わり合いがないはずなのに。

どこで私は、好きな人が出来たというのだろう?

……同級生では、なさそうだ。

多分……私は……。


「……考えなくても、答えは出てるんだと思う」


けど、まだ自信がなかった。

本当に、私の導きだした答えで合っているのだろうか?

完全に記憶を取り戻さない限り、私の疑問が晴れることはないだろう。


「……けど、確かめるのは、怖い」


かつて経験したことのない程の、恐怖。

今の私は、決して『海田杏子』ではないのだ。

だから、この気持ちも、偽りの気持ちなのかもしれない。

だからこそ……私にはきっかけが必要だった。

私の気持ちに気づく為の、きっかけが。


「……健太さん」


何か、きっかけが欲しい。

私の気持ちに気づく為の、きっかけが……。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ