表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/106

6-2 失われた記憶 その2

「お、おい!人が車に轢かれたぞ!」

「女の子だ!誰かあの女の子を此方まで運んでやれ!」

「救急車だ!救急車を呼べ!!」


辺りが騒然としてくる。

無理もない……何故なら、目の前で人が一人、トラックに跳ねられたのだから。


「大丈夫か!まだ生きてるな!」

「ええい、救急車はまだか!!」


見知らぬ人達が、杏子の為に動いていた。

物凄く感謝はしていた……けど、俺はその場で棒立ちになっていて、動くことすら出来なかった。

心臓は動いている……思考は働いている。

いざと言うときに動く準備もしてある。

だと言うのに……肝心の体が、言うことを聞かなかった。

杏子を助けたいという一心よりも……杏子がトラックに跳ねられたという事実の方が、俺の心の中を埋め尽くしてしまったからだ。


「……い!おい!」

「……俺か?」


その時、自分が呼ばれていることにようやく気付いた。

慌てて意識を取り戻してみれば……何やら怒りの形相を浮かべている、自分よりも5、6歳は歳が離れている男の人が立っていた。

……何故、俺に向かって怒っている?


「お前……今トラックに轢かれた女の子の兄だそうだな」

「……ああ」


ようやっと出した一言は、気の抜けたような返事だった。

ショックで、まともに声も出せないでいたのだ。

その時だった。



(バシン!!)



「……え?」


頬を、思い切り叩かれた。

それは、凄く痛い一撃だった。

心が込もっていて……力が込もっていて、怒りが込もっている。

そんは一撃だった。

叩いた男は、その後に俺にこう告げた。


「馬鹿野郎!兄が妹を助けないで、何ノウノウとこんなところで突っ立ってるんだ!それでもお前は、本当に兄と言えるのか!!」

「……は!?」


怒りすら込み上げてくる一言だった。

理不尽な一言だ。

他人の心の中を読み取ることが出来ない人間がやらかす、とんだ勘違いだ。

……心配しないとでも思っているのか?

自然と俺の体は、震えていた。


「自分だけこうして生きててあ~良かったとか思ってるんだろ!お前はそれでも兄なのか!?本当はお前、兄なんて役目は出来ていないんじゃねえのかよ!!」

「黙れ!!お前に俺の心の中が分かるわけでもねぇのに、勝手なこと抜かしてんじゃねえ!!」


ついに耐えきれず、俺は、キレた。


「目の前で大事な奴が車に轢かれた奴の気持ちが分かるか?分からねぇだろ!自分だけが生きててあ~良かっただと?!ふざけるのも大概にしろ!!心配してなかったわけじゃねえ!テメェラに指摘される筋合いなんかねぇんだよ!!」

「なんだとこの野郎!!」

「俺は兄だ。海田杏子の兄だ!!兄の役目は十分に務めているつもりだよ!兄失格のような行動なんざ、一度たりともしたことねぇよ!!」


怒りに任せて言う言葉は、ほとんど意味が通じないものだった。

けれど……納得いかない。

人がどんな思いをしているのか分かってない奴に、そんなことを言われる筋合いなんかねぇ!!


「やめろ!今は喧嘩してる場合じゃないだろ!」


今にも殴りかかろうとしていたその時。

誰かが俺達の間に割って入って、そう告げた。

……確かにその通りだ。

今は杏子だ……体は、動く!!


「杏子ぅうううううううううううううううう!!」


俺は夢中で、駆け出していた。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ