5-7 Winning shot! その7
その後試合は、両チーム追加点を入れることなく、そのまま引き分けと言うことになった。
けれど、双方の選手は皆、やりきったとでも言わんばかりの表情を浮かべていた。
「木村君!」
「……尾崎さん!」
試合直後で疲れているだろうに。
尾崎さんはわざわざ、僕の方に来てくれたのだ。
観客席からでは狭いので、
「ちょっと行ってくるね」
「うん……頑張ってきな」
「……何を?」
「良いから行けって!」
トンッ。
和樹が言っていたことも気になったが、背中を軽く叩かれた為、僕は聞く機会を逃してしまった。
多少の違和感が残るものの、僕は観客席から出て、尾崎さんのところに向かった。
「凄かったね!最後のホームラン」
「結局試合は負けちゃったけどね……」
「いや、十分だよ!あの場面でホームランを打ってなかったら、きっと引き分けでは終わってなかったよ」
「……そうかな?」
顔を若干赤くして、尾崎さんは僕に尋ねてくる。
「うん、そうだよ。だから尾崎さんはもっと自信を持っていいんだよ」
それは、ある意味で数日前に尾崎さんが僕にしてきた質問の、尾崎さんなりの答えの見つけ方だったようにも見えた。
あの時、尾崎さんは『いいプレーをすることが出来るか不安だ』と言ってきた。
だから僕は、『大事なのは、その失敗を次に生かすこと』と言った。
そして尾崎さんは……見事にそれをやり遂げたのだ。
「……ええ、そうね。これからは、もう少し自分に自信を持ってみることにするわ」
「……うん、それがいいと思うよ」
自分に自信を持たないと、いつも出来るようなことでもすぐに失敗してしまう。
練習で出来るのに本番でそれを完全にやり遂げることが出来ない人と同じことだ。
「……ありがとう、健太君」
「え?」
ありがとう?
何のことに対してのお礼なのだろうか。
僕にはさっぱり分からない……けどその疑問は、すぐに晴れることとなった。
「私は、今まで試合で全力を出すことが出来なかったの。試合になると、どこかあがっちゃって、体が固くなっちゃって、それで凡ミスしちゃったり」
「……」
「けど、今の木村君の言葉のおかげで、その原因がなんだったのかが分かったわ。ありがとう、木村君……これからは、もっと自分に自信を持つようにするわ」
「……うん」
僕は、特別何かの言葉を返すわけでもなく、ただ首を縦に頷かせながら、一言そう言った。
「それじゃあ……お別れの時間なのかしら?」
「……うん、そうだね」
僕も家に帰らなければならないし、尾崎さんはこの後チームのメンバーと一緒に反省会みたいなのをやると思うから、ここでお別れだ。
……なんだか『お別れ』という言葉が嫌に重く聞こえるのは気のせいだろうか。
「それじゃあ……最後に一つだけ、約束してもらってもいいかしら?」
「なに?」
「……もう一度、何処かで会いましょう」
「……了解」
そんなことなら全然大丈夫だ。
むしろ、大歓迎とも言うべきだろうか。
「それじゃあ……さようなら」
「……うん、さようなら」
そして僕と尾崎さんは、別れた。
同時に、世界が割れて、僕の意識は急速に遠のいて行った。