5-6 Winning shot! その6
試合はそのまま流れてしまい、今は最終回表。
0-2のまま迎えたこの試合は、この回で2点以上とらないと、大木高校は―――尾崎さん達は負けてしまう。
「ハァハァ……」
すでにピッチャーは息が荒い。
汗がダラダラと流れており、今にもスタミナが切れてしまうのではないかと思わせる。
「ここで打たないと……負ける」
ワンアウトランナー三塁。
外野にフライを飛ばすことが出来れば、少なくとも1点はとることが出来る。
0点で負けるよりは、1点でも入れて負けた方が数倍もましだろう。
「……」
この時点で、バッターは尾崎さん。
代打としてバッターボックスに立ってから、これで第二打席目となる。
「頑張れ!尾崎さん!」
「!……」
尾崎さんに、僕な応援の言葉を叫んだ。
すると、尾崎さんは首を縦に頷かせて、その言葉に答えたような気がした。
「……行くわよ」
「……!!」
バッターボックスに立った尾崎さんは、無言でピッチャーのことを睨む。
……両者共に息は荒くなっていた。
日差しのせいでもあるのか、汗も自然と湧き出てくる。
僕の頬も、一滴の汗が通過したような気がした。
「この打席で……ランナーとして残れるか、はたまたツーアウトになってしまうかで、その後の試合展開が変わるね」
「……うん」
尾崎さんがもし三振……あるいは点を入れたとしてもランナーとして残れなかったら、恐らく大木高校は負けてしまうだろう。
けれど、僕は何故だか、尾崎さんはここで何かの奇跡を起こすのではないかと思った。
……隣にいる和樹には申し訳ないけど、この練習試合は、大木高校が勝つのではないか、と考えていた。
「……!」
そしてピッチャーより放たれる、第一球。
「……」
パァン。
乾いた音が、グラウンド中に響いた。
判定は……。
「ボール」
「……よく振らなかったね、尾崎さん」
「……見えてるんだろうね」
「え?何が?」
「……相手の球が」
そんな和樹の言葉に答えるかのように、尾崎さんは次の球を振ってきた。
しかし……それは惜しくも空振り。
球が直前で浮き上がる、ライズボールだった。
「タイミングは合ってる。後は球をよく見て……」
尾崎さんは、そんなことを呟いている……ような気がした。
この距離では、声は聞こえないから何となくになってしまうけれども。
「こ……の!」
思い切りピッチャーが投げた第三球は、
「……!!」
またもや球が直前になって浮き上がった。
……ライズボールだ。
だが、尾崎さんは、
「ハッ!」
コォン!
そのライズボールを、バットに当てたのだ。
ただ、それはキャッチャーの遥か後ろに行ってしまった為、ファールとなった。
「これで……終わらせる!」
シュッ。
ピッチャーは、第四球を投げた。
恐らくは……ライズボールを投げたのだろう。
だが、
「くっ!」
苦い表情を浮かべていた。
……そう、汗で滑ってしまい、ボールが浮かなかったのだ。
そのままボールは、ど真ん中に吸い込まれていき、
カァン!
ボールとバットの衝突音が聞こえた。
そして、ボールはゆっくりと、弧を描くように上がっていく。
やがてそのボールは……。
「……ほ、ホームラン!!」
ホームランボールとなったのだった。