5-4 Winning shot! その4
四回裏。
試合も中盤に差し掛かっていた。
両チームとも、必死の攻防を繰り広げているため、未だに0-0のままであった。
けれどこの回、大木高校側は、本日初のピンチを迎えていた。
「ハァ……ハァ」
ツーアウトランナー二・三塁。
バッターは、四番。
ピッチャーはそろそろスタミナが切れかかっていた。
「……」
緊張の一時。
打たれたら、先制点を許してしまう。
抑えたら、何とか平行線を辿ることが出来る。
なら、ピッチャーとしても全力でアウトを取りに行くしかないだろう。
……けど、何故だろうか。
僕は、このピッチャーが打たれてしまうのではないかという、根拠もない不安(?)を抱いてしまったのは。
「……甘いコースに入るね、あの様子だと」
「え?」
隣に座る和樹がそう呟くと同時に、ピッチャーは投球フォームに入る。
そして、キャッチャーミット目掛けてボールを投げた。
ところが。
「あっ!!」
ピッチャー側はもちろん、キャッチャー側もかなり焦った表情を浮かべた。
何故なら、手から吹き出ていた汗がきっかけとなったのか。
それでボールを持つ手が滑ってしまい、和樹の言葉通り、バッターから見て内側よりの、しかしど真ん中の方に球は吸い込まれていく。
「ふっ……もらったわよ!」
キィン!
金属バットから発せられた強烈な音と共に、打球は外野の方へと飛んでいく。
そして、ガシャン!と音を立てて、フェンスに直撃する。
この間に、二塁・三塁にいたランナーはホームベースを踏み、得点を入れていた。
そして、打ったランナーも二塁で止まる。
……これが俗に言う、タイムリーツーベースという奴か。
「……くっ!」
ピッチャーは、物凄く悔しそうな表情を浮かべて、地面を蹴った。
……そうなりたい気持ちも分からなくもない。
確実に入ると思っていたシュートが、キーパーに止められた時並みの悔しさが、そこにはあると思うから。
「にしても、よく甘いコースに入るなんてことが分かったね?」
「分かったと言うよりも、勘だよ……かなり疲れている様子だし、手に汗のようなものがついているのを見つけたからね。まさかとは思ったけど……」
「本当にそうなるとは思ってなかったの?」
「……まぁね」
予想はしていても、まさかその通りになるとまでは考えていなかったらしい。
まぁ、それがごく普通の意見なんだろうなぁ。
「はっ!」
スパン!
その後は、先ほどの失敗を取り戻すかの如く、そのピッチャーは次のバッターを三振にすると、
「みんな……ゴメン」
その人がチームメイトに向かって、謝っていた。
……凄いな、やっぱり。
自分がミスをしならなば、すぐに謝ることが出来るのだから。
「……お疲れ様。ゆっくりと休んでいろよ」
「……はい!」
監督らしき人が、先ほどのピッチャーにそう優しく告げる。
そして、
「……代打、尾崎!」
ついに、尾崎さんの名前が呼ばれたのだった。




