0-5 Mysterious
……目が覚める。
僕はまた、同じ世界に来ていた。
もう見慣れている、カケラの世界。
ただ、そのカケラの数は、以前よりも少し数が減っていた。
……すでに僕は四つのカケラの世界に行っている。
そして、そのカケラに秘められた『願い』を叶えている―――らしい。
らしい、というのは、僕自身にはその『願い』の正体は伝えられないからだ。
誰がどんな『願い』を抱いているのかなんて、本人以外には分かりっこないのだから。
「ふむ。今回も無事に戻ってきたようだな」
―――マリアさん。
目が覚めると、マリアさんの姿が見える。
これも、いつも通りの光景だった。
……だったはずなのに。
―――あれ?
「む?どうかしたか?」
―――いや、何でもない。
気のせいだろうか?
……マリアさんの体が、一瞬透けて見えた気がしたのは。
力強く目を閉じてから、僕はもう一度目を開く。
しかしそこにあったのは、きちんと体があるマリアさんの姿だった。
……気のせいだったんだ、やっぱり。
「変だな……今日のそなたは」
―――そうかな?
何だかマリアさんが不思議がっているのが分かった。
だから僕は、そう返事を返すことにした。
―――ところでマリアさん。ひとつだけ聞いてもいいかな?
「何を?」
―――美咲の願いのことなんだ。
美咲はあの世界で、『僕を諦めることが願い』と言った。
それは、どういう意味なのだろうか?
「何を申しておる。言葉通りの意味だ。木村美咲は、『兄として』木村健太を見ていくことを、決意したのだよ。その想いが揺るがないように……『願い』を込めたのだ」
……なるほど、そういうことだったのか。
美咲は、すでに僕のことを諦める選択をしていたのか。
……元の世界での僕は、すでに選んでいる人がいるから。
その想いが揺るがないように……決意が揺るがないように、この世界に込める『願い』として、それを選んだのか。
「分かったのなら、次の世界に行くとよい……今のところは順調にことが進んでいるみたいだからな」
―――この先、何か想像もつかないような事態とかも発生するのかな?
「よほどのことがない限りは起こらないだろう。何せこの世界の創造主は我だ。その我がそう言うのだから、起こらないに決まっておる」
―――代償は発生するのに?
「……あれは起こることが必然なのだ。むしろ、起こらないことの方がおかしい物なのだよ」
―――まぁ、確かにそうだよね。
どんなに完璧に作ったと思った物でも、そこには必ず綻びがある。
それが……カケラの世界では代償として現れただけの話しだ。
「……次のカケラを選ぶがよい」
次のカケラ……よし、これにしよう。
「尾崎早織の世界、か……ふむ。やることは、分かっておるな?」
―――もう十分大丈夫だよ。
四回もやってきたんだ。
これで、五回目でもあるし。
……カケラを握りしめ、僕は念じる。
すると、いとも簡単に、僕の意識は、カケラの中に吸い込まれていった。
我の力が、徐々に……。
次回からは、「尾崎早織」編に参りたいと思います。