4-6 彼女の選択 その6
「美咲……」
凄く話しかけずらい……。
この前までは家族だった美咲が、今では赤の他人となってしまったのだ。
果たして僕は、どのように美咲と接すればいいのだろうか?
「……あ」
それは美咲も同じらしく。
どう話しかけようか、美咲もまた戸惑っていた。
……ああ、このやり取りだけでも。
僕と美咲は、変わってしまったんだなぁということが実感できた。
「健太……さん」
「……うん、こんにちは、美咲」
呼び方こそ変わらないけど。
その名前にかかる重さが違っていた。
『木村』という苗字から、『月宮』という苗字に変わった美咲。
……何というか、どうすればいいのだろうか。
「こうして会うのも、久しぶりだね」
「……そう、ですね」
「……堅苦しい敬語はなしにしよう。余計に互いに話しづらくなるから」
「……うん」
敬語で話すのは、なんだか抵抗がある。
それに……本当に赤の他人になってしまうような、そんな気がした。
だから僕は、美咲に敬語で話すのをやめさせたのだ。
「家での生活はどうだい?」
「……ぼちぼちってところ」
「そっか……」
何かを話す度に、僕達の間では空白の時間が流れてしまう。
話す内容を考えながら、僕達は何を話したらいいのか分からずにいた。
「……美咲は、この結論で、後悔していないんだよね?」
「え?……うん、もちろんだよ」
「本当に?」
「……え?」
僕は、そう尋ねた時の美咲の顔が、一瞬ながら暗くなっていることに気付いた。
ひょっとしたら、心のどこかで、この結論を出したことを後悔しているのかもしれない。
「……君のお父さんから聞いたんだ。美咲が、父親に甘えなくなったって」
「……それは」
「長い間話さなかったから、父親に対する話し方を忘れてしまったんだよね?」
「……」
黙り込む美咲。
そして、
(コクッ)
首を縦に頷かせた。
……やっぱりか。
「こうなることは……分かってた」
「え?」
その時。
美咲がそう口を開いてきた。
さらに言葉を続ける。
「私がこの道を選んだのは……理由が二つあるの」
「二つ?」
「一つは……お父さんが私の所に来てくれたのが、嬉しかったから」
美咲の本心からの言葉なのだろう。
その言葉には、嘘偽りはないように見えた。
「最初は戸惑ったけど……それでも、私のお父さんが、一緒に住もうと言ってくれたのが、嬉しかったの」
「……そっか」
「もう一つは……もう一つはね」
美咲は、そこで一旦言葉を区切る。
そして、溜めた後に、言った。
「私は、健太さんのことが……大好きだから!!」
「……え?」
「兄としての尊敬じゃなくて……男の人として、健太さんが、好きになってしまったから……これ以上健太さんと同じ所に住んでいたら、心がどうにかなってしまうと思ったから……だから私は、木村家を出たの」
その言葉を聞いた時。
僕の頭の中は真っ白になった。